監督:トム・リン(林書宇)(『九月に降る風』)
脚本:リチャード・スミス
原作:タン・トゥアンエン(陳團英)
出演:リー・シンジエ(李心潔)、阿部寛、シルヴィア・チャン(張艾嘉)、ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ、デビッド・オークス、タン・ケン・ファ、セレーヌ・リム
1980年代、マレーシアで史上二人目の女性裁判官ユンリン(シルヴィア・チャン)は連邦裁判所事を目指していた。かつて愛した男、謎多き日本皇室庭師の中村(阿部寛)が、とある財宝にまつわるスパイとして指弾されているのを知り、彼の潔白を証明できる証拠を探すことを決意する。
ユンリンにとって、忘れることのできない約30年前の記憶を手繰り寄せる。
1950年代。イギリスの統治が再開されたマレーシア。ユンリン(リー・シンジエ)は戦犯法廷のアシスタントとして働いていた。戦時中、収容所で亡くなった妹の夢であった日本庭園を造りたいと、キャメロンハイランドで活躍する日本人庭師の中村の元を訪ねる。中村は、現在造っている庭園“夕霧花園”で見習いしながら庭造りを学ぶことを提案する。ユンリンは、第二次世界大戦中のことを思い起こす。イギリスの植民地のマラヤ(現在のマレーシア)でユンリンは妹のユンホンと共に日本軍によって強制労働に駆り出されていた。日本は敗戦し、現地人捕虜を収容所ごと焼き払う。ユンリンはただ一人助かり、妹を見殺しにしてしまった自責の念に苛まれ続けていた。日本人に対しても悲しみと憎しみを抱えていたのだが、造園を手伝いながら、どこかミステリアスで孤独な中村に惹かれていく・・・
台湾のトム・リン(林書宇)監督が、マレーシアの作家タン・トゥアンエン(陳團英)の英文小説でブッカー賞ノミネートの「The Garden of Evening Mist」を映画化。
裁判官として活躍するユンリンが、かつて愛した日本人の皇室庭師である中村のスパイ容疑を晴らそうとする中で、時代をさかのぼって過去の出来事が明かされていきます。最後に、ユンリンが日本占領下のマラヤで妹と共に受けた辛い出来事にたどり着き、胸を締め付けられる思いがしました。中村が造る夕霧花園に秘められた謎にもぞくぞくさせられました。中村を演じた阿部寛、はつらつとした裁判官を演じたシルヴィア・チャン、どちらもとても素敵です。(咲)
昨年の大阪アジアン映画祭オープニング作品。昨年3月はすでにコロナの影響で、海外からのゲストは来日できず、トム・リン監督はリモートで登場。東京や名古屋からいつもこの映画祭に参加するメンバーも私の周りでも数人来ませんでした。でもこの作品、けっこう人が入っていました。
作品の内容的には、いろいろなことが入り込み、人間関係とか登場人物の関係性とか複雑で、もう一度見ないと消化不足という感じで終わっていたので、それから2年余り、再度見て、関係性、マラヤの当時の状況、今日の状況とか、いろいろなことが繋がってきて、胸の中にあったモヤモヤを解消することができた。それにしても、時代背景、マラヤでの日本軍のこと(太平洋戦争時の日本による支配)、イギリス植民地時代の影響など、いろいろなことが絡まっていて、人間関係の前に、そういう時代背景を理解して、日本人、イギリス人とのかかわりなども含めて、物語は語られている。それにしても日本人庭師というのがマラヤで活躍していたという背景、やはり不思議だなと思う。現在のマレーシアは、マレー系、インド系、中華系の民族からなる国になっているが、その融和というのが一番の課題なのだろう。
私が1990年、初めての外国、オーストラリアに行った時、マレーシア航空で行ったので、最初に降り立ったのがマレーシア・クアラルンプールだった。そこで1日街中を歩きまわった時、インド人街、マレー人街、中国人街と、はっきりと住む街が分かれているのに驚いたが、それはマレーシアの歴史から来たものだった。その時は知らなかったけど、ヤスミン・アフマド監督の『細い目』でマレーシアの人種構成、人種間の距離というのを知った。この映画はさらに、台湾のトム・リン監督が製作した作品ということで、また、マレーシア在住の華人とは思いが違うかもしれない(暁)。
台湾・金馬奨最優秀スタイリングデザイン賞
2020年大阪アジアン映画祭オープニング作品
2020年/マレーシア/120分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕:川喜多綾子/字幕監修:山本博之
配給:太秦
公式サイト:http://yuugiri-kaen.com/
★2021年7月24日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
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