2021年07月17日

親愛なる君へ(原題:親愛的房客 )

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© 2020 FiLMOSA Production All rights

監督・脚本:チェン・ヨウチェ
監修:ヤン・ヤーチェ
出演:モー・ズーイー(リン・ジエンイー)、チェン・シューファン(チョウ・シウユー)、バイ・ルンイン(ワン・ヨウユー)、ヤオ・チュエンヤオ(ワン・リーウェイ)、ジェイ・シー(ワン・リーガン)、シエ・チョンシュアン(検察官)、ウー・ポンフォン(警察官)、シェン・ウェイニエン(警察官)、ワン・カーユエン (ネット市民)

ピアノ講師をしているジエンイーは、間借りしている家の老婦・シウユーの介護と、その孫のヨウユーの面倒をひとりで見ている。血のつながりもないけれども、今は亡き同性パートナー、リーウェイの家族だからだ。彼の家に住み、彼の家族を愛することが何より重要なことだった。
しかしある日、痛みに苦しんでいたシウユーが亡くなってしまう。その死因を巡り、ジエンイーは不審の目で見られ警察沙汰になってしまうが、弁解もせず罪を受け入れようとする。それは愛する“家族”を守りたい一心から出たことだった。

シウユーは糖尿病らしく、脚や目に重い症状が出てきます。入院も手術も拒否して、何度も痛みを訴えます。これは在宅で看病する人にも辛い状況です。指先まで優しいジエンイーに「よく頑張っているね」と褒めてあげたいくらいです。母親が亡くなって、リーウェイの弟が戻ってきます。それまで実の息子でありながら、母の世話もせずジエンイーまかせだったのに、母親の財産の行き先を聞いて態度が変わります。ああ、やれやれ。控え目で辛抱強く、リーウェイを心から大切に想っているジエンイーをモー・ズーイーが静かに演じて、切なさが増します。ネットでジエンイーと知り合う男を演じたワン・カーユエンも印象に残りました。
ジエンイーはゲイであることで、常に理不尽な目に遭います。同性でも異性でも、相手を大切に想う気持ちは変わらないでしょうに。検察官がジエンイーに「なぜそこまで他人の世話をするのか」と尋ねたときに、「自分が女性だったら、そう聞くでしょうか?」と逆に質問します。相手は黙ります。
でも、今や女性だからといって夫亡き後、義父母を看取るとは限りませんよ。実の子だってそう、と自分の終活を思わず考えました。性別に関わらず、血のつながりがなくとも「家族になれる」というお話が最近多いです。家族にもいろんな形があっていい、ゆるやかなつながりで心地よく生きられればいいですよね。(白)


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© 2020 FiLMOSA Production All rights

映画が始まって程なく、背景に低い山に囲まれた港! あ、基隆!と、もう感無量でした。基隆は、私の母が7歳から終戦の年までの10年間を過ごした町。『親愛なる君へ』でジエンイーが間借りしている家は、少し高台に建っていて、時折映し出される港の風情がとてもいいです。
亡くなったパートナーの幼い息子と老いた母親を甲斐甲斐しく世話をするジエンイーの姿が切ないです。“国民のおばあちゃん”と呼ばれる名女優チェン・シューファン(陳淑芳)さん演じるシウユーが「痛い痛い」と苦しむのをなんとかしてあげたいと思うジエンイーや孫。自宅での介護の大変さも胸に迫ります。折に触れて基隆の港が背景に出てきた本作、シウユーの苦しむ姿が10年前に癌に苦しみながら亡くなった母に重なりました。(咲)
★スタッフ日記に、思いをたっぷり書きました。
『親愛なる君へ』 基隆で育った母の最期を想う(咲)

莫子儀(モー・ズーイー)には、『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』( 霍建起監督)が東京国際映画祭で上映された時(2009年)にインタビューしたことがある(シネマジャーナル本誌78号に掲載。HPにも掲載)。その頃はインディペンデントの作品に出ていて、この作品が初めての商業作品出演だった。その話し方から感じたのは、穏やかだけど、芯のある役者というイメージだった。それ以来、ずっと彼の出演作品を気にかけていた。その時からもう11年にもなる。激しさはないけど、穏やかで芯のある役者というイメージは今回の作品でもそう感じられた。

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2009年東京国際映画祭『台北に舞う雪~』舞台挨拶時の莫子儀(撮影 宮崎暁美)

去年夏頃、莫子儀のインタビュー記事が載っているシネマジャーナル78号(2010年春号)を購入したいという日本滞在中の台湾の方から連絡があり、何冊か購入していただいた。それで久しぶりに彼のことを思いだし、どうしているのかなと思っていたら、その方から11月にメールが来て、「莫子儀が『親愛的房客』で主演男優賞を獲得した」と連絡があり、「この作品、日本で公開されますかね?」と質問もされ、私は「来年あたり公開されるかもしれませんね」と答えたものの、情報はない状態だった。そうこうしているうちに6月頃、この映画の日本公開の情報を知った。

この作品を観て、ジエンイーは間借り人だけど、亡くなってしまった恋人の母親シウユーと子供ヨウユーを見捨てるわけにはいかなかったんだろうなと思い、彼と一緒に登った思い出の山など、情緒的な話の展開に引き寄せられた。そして、ジエンイーが逮捕された時に離れたくなかったヨウユーの行動を見て、血の繋がりを越えた家族の絆を感じた。
また、彼らが住んでいる家(マンション?)のベランダから見えた港の景色を見て驚いた。基隆だ! 基隆には3回行ったことがあり、去年2月にも行ったばかり。新コロナの影響が出始めたころで、行くのをさんざん迷ったけど、もう20年近く前から行ってみたかった十分(シーフェン)の天燈祭り(ランタン祭り)にやっと行けるというチャンスを逃したくなかったので出かけた。天燈上げの前に近くの基隆に行ったのだけど、その時は侯孝賢監督の『ミレニアル・マンボ』の冒頭に出てきた基隆の歩道橋が取り壊されてしまうというのでそれを探しに行った。橋をみつけた後、食堂に入ったけど、その食堂の後方あたりにあるビルのどこかが、この家族が住んでいるという設定の場所だろうと、この作品を観て思った。基隆湾の光景が懐かしかった。
天燈上げに興味を持ったきっかけは『シーディンの夏(石碇的夏天)』で、この作品で初めて天燈上げを観た。その後いろいろな作品で「天燈」が上がるシーンを観て、ますます興味を持った。そしていつかこの十分の「天燈祭り」に行ってみたいと思うようになった。去年、十分に行った時、道路標識で「石碇方向」というのを見て、石碇はこの十分の近くなんだと思った。この『親愛なる君へ』の作品紹介を書くにあたっていろいろ調べるうち、鄭有傑(チェン・ヨウチエ)監督のフィルモグラフィの中に『シーディンの夏』をみつけ、『シーディンの夏』は鄭有傑監督の作品だったんだと改めて思い縁を感じた。「基隆」しかり、「石碇」しかり、鄭有傑監督は、侯孝賢監督同様この台湾北部の地域が好きなのかもしれない。  
* 侯孝賢監督『悲情城市』は基隆、九份が舞台。『恋々風塵』は十分が舞台。
* 台湾ロケ地めぐり 平渓線沿線『台北に舞う雪』公開記念

台湾金馬奨では、老母を演じた81歳の陳淑芳(チェン・シューファン)がこの作品で助演女優賞を獲得したが、彼女は『孤味(弱くて強い女たち)』では主演女優賞を受賞し、金馬奨史上初めて、主演女優賞と助演女優賞ダブル受賞を果たした。『弱くて強い女たち』は、去年(2020)の東京国際映画祭で上映されたけど、この作品も日本公開されますように(暁)。


◆ジエンイーが恋人や、恋人の子供ヨウユーと登った山は
合歓山(ハーファンシャン Héhuān Shān)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E6%AD%93%E5%B1%B1

◆終盤の圏谷の光景は雪山(シュエシャン) 台湾で2番目に高い山 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%B1%B1_(%E5%8F%B0%E6%B9%BE)

2020年/台湾/カラー/シネスコ106分/R18+
原題:親愛的房客 Dear Tenant
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 FiLMOSA Production All rights
http://filmott.com/shin-ai/
★2021年7月23日(金・祝)シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開

*シネマジャーナルHP 特別記事
『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』莫子儀(モー・ズーイー)インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/taipei-snow2/index.html
posted by shiraishi at 00:24| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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