2021年05月29日

幸せの答え合わせ  原題:Hope Gap

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監督:ウィリアム・ニコルソン
出演:アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー

イギリス南部の町シーフォード。海辺の白い崖の下に「ホープ・ギャップ」と呼ばれる入り江が広がる。グレース(アネット・ベニング)は、好きな詩を集めながら、今は家を出て独立した一人息子ジェイミー(ジョシュ・オコナー)が、「ホープ・ギャップ」を大好きだったことを思い出す。もうすぐ結婚29周年を迎える夫エドワード(ビル・ナイ)は高校で歴史を教えている。土曜日の午後、ジェイミーが久しぶりに帰ってくる。日曜の朝のミサには行かないという。エドワードも試験の採点があるから行かないという。グレースが一人で教会に行っている間に、エドワードは息子に「もう限界。家を出ていく。母親を支えてやってくれ」と頼む。教会から帰ってきたグレースは、夫から別れを告げられる。突然のことに驚くが、夫は準備していたスーツケースを携えて出ていってしまう・・・

順風満帆、幸せな日々だと思っていた妻。一方、ずっと妻とは合わないと我慢してきた夫。所詮、結婚するのは勘違いと勢い。一緒に暮らしてみたら、思い描いていたのとは違うということもあるでしょう。アネット・ベニングが、こんな女性と一緒に暮らしていたら、確かに疲れるというグレースを実に上手く演じています。夫が出ていったあとも毎日無言電話をかける陰湿さ。寂しさを埋めるために飼った犬にエド(エドワード)と名付けて、「死ね」と動作させるのには笑ってしまいました。
一緒にいて気楽な女性と出会ったからと出ていくなんて、勝手だ!と思う一方、一度きりの人生、好きにしたほうがいいとも思ってしまいます。
父が出て行ったあと、毎週、実家に帰ってくる息子が健気です。自分の恋もなかなかうまくいってないのに、せめて週末には母親と過ごさなければという孝行息子。「ホープ・ギャップ」に佇みながら、小さい頃、両親に手を繋がれて家路についたのを懐かしく思い出します。「母は幸せだったのか?」と自問するジェイミー。息子としては、幸せな時もあったに違いないと思いたいでしょう。
あと、本作で面白い!と思ったのが、宗教に対する母と息子の考え方の違い。
息子は、「この世は不平等。安心を得るために神と天国の物語を作り上げた」と、もう信仰を捨てています。一方、「神は存在する」と教会にいくのを欠かさない母。「自殺したら地獄行き」という教えも、しっかり信じていることが救い?(咲)


若い頃は魅力に感じたことも、歳を重ねると苦痛に思えてくることもあります。言葉に出して変化を求めた妻と、それが負担になって苦痛を感じるようになった夫。夫婦というのは本当に難しい。
本作は監督と脚本を手がけたウィリアム・ニコルソン自身の両親が30年の結婚生活の末に離婚したことをベースに脚本が書かれました。主人公は母のグレースですが、監督が投影されたと思われる息子の視点も入っています。親の離婚は幸せだったころが否定されてしまうような気持ちになり、大人になっていてもショックであることが作品から伝わってきました。
同じ木下グループの『ベル・エポックでもう一度』も高齢夫婦の仲違いをテーマにしていて、こちらも夫婦に息子1人と家族構成が同じ。本作の主人公グレースが機嫌を損ねるとテーブルを引っ繰り返していましたが、こちらは夫の荷物をまとめて追い出してしまう。妻が気の強い点でも似ていますが、夫婦の辿るその後の道筋はかなり違います。見比べてみるのもいいかもしれません。(堀)


長年暮らした夫婦が別れるというのがテーマの作品ですが、これはやはり男性監督が夫側の視点から描いていると思いました。いかにも、こんな女ならやっぱり嫌になるよなというような妻を描いています。でも彼女が、夫との関係の中で悩んだことは描かれていません。「愛されていると思っていたのに」としてしか描かれていません。彼女なりの悩みや、ここまでくるまでの夫との葛藤とかあったはずだと思うのですが。
この年代(60代以上?)の夫が、本を読んでいる、あるいは詩の制作をしている妻にお茶を入れてあげるなんていうシーンが描かれた作品はなかなかないですし、夫が食事の後の食器を洗っている間、妻は手伝うでもなくソファの上でだらっとしているみたいなシーンもあったし、とにかく夫は妻のためにかいがしく働いている。それに対して妻は感謝の言葉も表情もない。なんだかわざとらしいと感じてしまった。ま、これは観客に対して、「こんな妻なら、やっぱり夫は出ていきたいと思うわな」と思わせるための演出なんでしょうけど。これを夫がしていても観客はそうは思われないですからね。二人の間にたって、どちらの方にもつくわけにいかず、巻き込まれる息子。彼がいなければ、母はほんとに自殺でもしかねなかったかもしれない。それにしても女性から見ても、こんな人とは付き合いたくないなと思わせる女性像だったと思う。
私の家は逆で、父が母を一方的に支配しているような状況だった。「自分が養ってやっているんだから文句言うな」というような感じだった。今でいうDV夫だったので、中学の頃からずっと「なんで母はこんな父の支配に我慢しているんだろう。別れてしまえばいいのに」とずっと思っていた。母としてはずっと主婦として暮らしてきたし、自立して自分の収入で暮らしてはいけないだろうという思いがあったようだけど、ずっと我慢の人生だった。でも母に聞いた時に「幸せな時もあった」ということも言っていた。だから離婚せずいたのかもしれない。そんな母の姿を見てきたので、私は結婚はするまいと子供心に思ってしまった。そして就職して5年目くらいに私が家を出た。
そういう私から見て、この映画のテーマはわからなくはない。我慢して一緒に暮らすことはない。子供のことを考えて我慢することもないと思う。この映画の夫婦にも幸せな時はあったのだし、これまでの生活全部が不幸だったわけではないと思う。何度も出てきた海辺の白い崖のある砂浜の景色が印象的だった(暁)。


2018年/イギリス/英語/カラー/スコープサイズ/DCP/5.1ch/100分
字幕翻訳:川喜多綾子
配給:キノシネマ 提供:木下グループ 
© Immersiverse Limited 2018
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap
★2021年6月4日(金.) キノシネマ他、全国順次公開


posted by sakiko at 13:28| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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