監督: 内田伸輝
製作:奥山和由
プロデューサー:木谷真規
出演: 篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズ、筒井茄奈子、窪塚俊介
《チームオクヤマ25周年》作品
山あいの自然豊かな小さな町。美咲(篠原ゆき子)は、母の介護をしながら地域の学童保育所で働いている。40歳を目前に、思うように就職も結婚もできない娘に、半身不随の母・美津子(高畑淳子)は、口だけは達者で、お金をかけて東京の大学に行かせた甲斐がないと暴言を浴びせる。幼なじみの親友・香織(倉科カナ)が営む養蜂場を手伝うことと、母の介護を担当している直樹(窪塚俊介)と密かに愛の営みを交わすことで美咲は心の安堵を得ている。直樹に結婚をほのめかした翌日、ホームヘルパーの異動があったと、田中マリアム(サヘル・ローズ)が代わりにやってくる。美咲は、直樹に裏切られたことを知ってしまう。そんな折、香織が自ら命を絶ってしまう・・・
テレビからアベノマスクや一人10万円の給付金のニュースが流れ、本作がコロナ禍の中で撮影されたことが伝わってきます。生きにくい世の中で、それぞれの女たちの鬱屈した思いが綴られていて、ちょっと息苦しくなりました。美咲の父親は服毒自殺していて、そのせいで学校でいじめられたことが語られます。「産まなきゃよかった」とまで暴言を吐く母親ですが、「幸せになってほしかった。私の育て方が悪かった」と嘆く姿に、複雑な母の思いを感じました。
私が注目したのは、サヘル・ローズさん。母・美津子は、サヘルさん演じるマリアムが来た日、「ずっと外人と一緒で、何か盗られたら・・・」と警戒していました。その後、美津子の苦手な人参を美味しく食べさせてあげようと、マリアムはペルシア料理のホレシュテ・ハヴィージ(人参の煮込み)を作ってきます。彼女の優しさにすっかりほだされる美津子。
ペルシア料理が出てきて嬉しかったのですが、人参だけのホレシュ(煮込み)は初めて聞きました。マリアムは、「香織さんの蜂蜜を食べていると幸せな気持ちになる」と語っています。蜂蜜はイラン人にとって朝食に欠かせないもの。サヘルさんを上手に起用したと唸りました。(咲)
主人公の美咲は、実母との確執、甘い夢を見てしまった直樹の裏切り、と不幸のつるべ打ち状態です。自分のことでいっぱいで親友の香織の痛みに気づきません。このところ出演作が続いている篠原ゆき子さん、爆発寸前なのをおさえてなんとかやり過ごしている美咲に真実味を与えています。
倉科カナさん演じる香織については詳しく語られませんが、過去に男性に傷つけられたようです。いつも白い服装の香織は、地上で羽根を休めている天使のようでもあり、今に天上へ帰ってしまうのでは、というはかなさと透明感がありました。美咲と楽しむために用意したテーブルで、一人飲み続けるところは彼女の孤独が迫ってくる圧巻のシーン。
言いたい放題の母も、自分だけが辛いと思っていた美咲もよく似ていて、文字のとおりの近親憎悪です。香織を亡くしたことで、やっと頭が冷える美咲に「遅くても気づかないよりまし」と思ったことです。嘘つき直樹にお金返してもらいましょう。(白)
2021年/日本/カラー/97分
配給:シネメディア、チームオクヤマ
公式サイト:https://onnatachi.official-movie.com/
★2021年6月1日(火) よりTOHOシネマズ シャンテ他、全国公開
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