監督・脚本:山本起也(やまもとたつや)
プロデューサー:小山薫堂
撮影:鈴木一博
出演:藤原季節、原知佐子、杉原亜実、 中田茉奈実、 宮本伊織、 西野光、 小倉綾乃、 水上竜士、 野呂圭介、 外波山文明 、吉澤健、 柄本明
オレオレ詐欺を働いて旅をする若い男が天草の島にやってきた。寂れた商店街で楽器店を一人営む艶子は、孫だという彼を「将太お帰り」と迎える。男は現金を手に入れたらすぐに出ていくつもりだったが、艶子の世話に甘えるのが心地良く、しばらく将太として手伝うことにした。
地元FM局のパーソナリティを務める清ら(きよら)は、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画する。将太も引き入れ、少しずつ親しくなるが、なんだかひっかかりも感じていた。
タイトルの「のさり」は、天草の言葉で「良いこともそうでないことも、天からの授かりものとして受け入れること」を言うそうです。「排除」とは真逆の緩やかな優しさを感じます。
名前が明らかにならない青年役は、このところあちこちで顔を見る藤原季節。店の小銭までさらうワルの小者が、”ばあちゃん”と暮らすうちに変わっていきます。艶子ばあちゃんは”将太”を受け入れ、何も詮索せず、押し付けず日々を過ごします。わかっているのかいないのか明確にしません。様々な役を演じた原千佐子さんの遺作となりました。
「まやかしでも、人には必要な時があっど(ある)」という台詞がありました。”艶子ばあちゃん”にも”将太"にも必要な時だったのでしょう。同じような設定の作品を思い出しました。市原悦子&林遣都の『しゃぼん玉』(2016/東伸児)は、宮崎県の山村に逃げてきた犯罪者の青年と老女の物語。やはり同居するうちに青年が土地の若者と知り合い、ばあちゃんの身体を気遣うようになり、これまでの生き方を顧みて再生する話でした。本人の意思と周りの支えがあれば、人は変われるはず。人でいっぱいの都会では他人に構わないことが多いので、紛れることはできても、安らぐ場所は見つけにくい気がします。二つの作品のように海や山に抱かれて暮らす土地は、根無し草も落ち着きやすいのかもしれません。ブルースハープの音色が哀切です。(白)
オレオレ詐欺を目論む青年と、艶子ばあちゃんの不思議な関係もさりながら、背景に描かれている天草に興味津々でした。賑わっていた頃の映像や写真を集めて皆で見ようという若者たちの企画。網走番外地シリーズのポスターが並ぶ昭和の香り漂う映画館(高倉健にも愛された本渡第一映劇で撮影)に集った町の人たちの前に映し出されるのは、昭和39年(1964年)10月の東京オリンピックの終わった夜に起こった本渡中央商店街大火の映像。エキストラで参加していた方の中には、実際に大火を経験した人もいるのではないでしょうか。
柄本明さんが演じた能面師・碓井は、天草に実在する碓井弘幸さんがモデル。映画にも出てくる、まるで生きている人のようなユーモア溢れるかかしも、実際に碓井弘幸さんが宮地岳地区の人たちに作り方を指導しているもの。
天草というと隠れキリシタン(潜伏キリシタン)の地というイメージでしたが、それだけでない魅力がいっぱい。九州には何度も行きながら、未踏の地の天草に、いつか宮地岳かかし祭りの時期に行ってみたくなりました。(咲)
2020年/日本/カラー/ビスタ/129分
配給:北白川派
(c)北白川派
https://www.nosarinoshima.com
★2021年5月29日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
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