監督:橋本一
脚本:河原れん
撮影:角田真一
衣装:宮本まさ江
美術:相馬直樹
装飾:鈴村髙正
出演:柳楽優弥(葛飾北斎/青年期)、田中泯(葛飾北斎/老年期)、阿部寛(蔦屋重三郎)、永山瑛太(柳亭種彦)、玉木宏(喜多川歌麿)、瀧本美織(コト)、津田寛治(永井五右衛門)、青木崇高(高井鴻山)
幕府の締め付けが厳しくなっていた江戸。絵に打ち込む北斎は版元の蔦屋重三郎に見出される。食うや食わずの毎日を送っていた北斎は喜ぶが、なかなか銭にはつながらない。大人気の歌麿には「お前の絵には色気がない」と言われ、めきめきと腕をあげる若い写楽にも追い越される。自分は何を描きたいのか煩悶する北斎は、大自然の中でようやく自分らしい絵をつかんだ気がした。画業にまい進する北斎は、戯作者の柳亭種彦や滝沢馬琴と出会い、意気投合し友情を結んでいく。
早くからあの「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏波」の横断幕を目にしていたので、観られる日を楽しみに待っていました。キャストの豪華な布陣、若き北斎や絵師たちが次々と描き上げる様子に興味深々で見とれました。版元の蔦屋に捕り方が入ったときに、錦絵が散々に踏み荒らされ、果ては店の前に積まれて燃やされてしまいます。美術さんがどれだけ手をかけて用意したことか、ああ、もったいない。いや、手描きに見せたコピーだったかも。余計な想像をめぐらしてしまうほど、たくさんの絵が登場します。歌麿が入り浸る花魁の部屋の襖絵や調度品に目が吸い寄せられます。主役級の多くのキャストを飾る衣裳にもぜひ注目を。
青年期の柳楽優弥は負けず嫌いな北斎を生き生きと、田中泯は絵を描くことだけに打ち込む風狂な老年期を演じます。90歳で亡くなるまで数万点もの絵を残し、西欧の画家たちに大きな影響を与えた画業は今もあせることがありません。絵に没頭するあまり、逸話も多かったようですが、おかげで今も楽しむことができます。映画はぜひそのきっかけに。(白)
葛飾北斎の名前は多くの人が知っているでしょう。江戸時代後期の浮世絵師です。たとえ知らなくても、赤い富士山や波が大きくうねる向こうに富士山が見える浮世絵なら見たことがあるのでは。アメリカのLIFE誌が「この1000年で最も偉大な業績を残した世界の100人」という特集で選出した唯一の日本人。本作はその葛飾北斎の青年期(柳楽優弥)と晩年(田中泯)を描いています。
自分の絵のスタイルを見出せていなかった北斎をプロの浮世絵師に育て上げたのが版元・蔦屋重三郎。喜多川歌麿や東洲斎写楽もプロデュースしていましたが、絵師のタイプによって接し方が違う。子育てにも通じるものがありそう。なかなか一皮むけない北斎を歯がゆそうに見つめる蔦屋重三郎を阿部寛が渋く演じています。今、話題になっているTBSの日曜日のドラマ「ドラゴン桜」の桜木建二に通じるところがあるような気がします。阿部寛、いい役者になりましたね。
晩年の北斎と大きく関わるのが柳亭種彦。武士の身分を隠して戯作を書いていましたが、隠し通せなくなったときに悲劇が起こります。悩みながらも強い意志を貫き通した生き様を永山瑛太が熱演。印象に残ります。
タイトルの『HOKUSAI』は葛飾北斎のことだけでなく、彼に深く関わった人も含めたHOKUSAIという文化そのものを意味しているのかもしれません。(堀)
去年、試写状をいただいた時にも、東京国際映画祭でも観ることができずにいたのですが、パソコンを買いかえ、やっとオンライン試写で観ることができました。でも、我が家のは小さなノート型パソコンです。公開されたら大きな画面でまた観ます。
北斎の浮世絵はこれまでたくさん見てきたし、子供の頃は永谷園のお茶漬け海苔に入っている北斎のカード集めもしました。「富獄三十六景」にちなんだものでしたが、36種以上あったような気がしました。それが、今回36景だけでなくそれ以上ほんとはあると出てきて、何十年もたって納得しました(笑)。
北斎の浮世絵はたくさん見てきましたが、これまで北斎の生涯や考え方、生き方、性格などのことは、ほとんど知らずに来ました。この作品を観て、あの時代の絵師たちの仕事、芸術に対する迫害についても知ることができました。そして北斎が認められるようになったのが70代を越えてからというのにびっくりしました。
小布施の栗が好きで30年以上前から何度も通っているのですが、初めて小布施に行った時に北斎館にも行ったし、その後、天井画を見に行ったこともあるし、祭り屋台の北斎の絵も見たし、けっこう小布施には北斎ゆかりの場所があります。この映画にも出てきた高井鴻山は江戸まで修行に来ていた弟子だったのですね。そして故郷小布施に戻って、豪商になった鴻山が晩年の北斎を支えたということだったということがよくわかりました。
小布施での北斎ゆかりの地
https://hokusai-kan.com/obuse-and-hokusai/
そんなこともあり北斎の仕事を見てきたつもりだったのですが、こんなに激しい生き方をしてきた人だったとは、というのが映画を観た感想です。東京の北斎ゆかりの地には行ったことがないので、これを機に行ってみたいと思います。でもこの映画が公開されたらしばらくは混んでいるでしょうね(暁)。
TIFF2020 宮崎撮影
左から 橋本一監督、柳楽優弥さん、田中泯さん、河原れんさん(脚本・北斎の娘お栄役で出演)
2020年/日本/カラー/シネスコ/129分
配給:S・D・P
(C)2020 HOKUSAI MOVIE
http://www.hokusai2020.com/index_ja.html
★2021年5月28日(金)ロードショー
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