2021年05月09日
海辺の家族たち 原題:La Villa 英題:The House by the Sea
監督・製作・脚本:ロベール・ゲディギャン
出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン
マルセイユ近郊のベランダから美しい入り江を見晴らせる瀟洒な家。
父親が倒れ、パリで暮らす人気女優のアンジェルは、20年ぶりに故郷に帰って来る。
家業の小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、若い婚約者を連れた下の兄のジョゼフがアンジェルを迎える。父はすでに遺産相続のことを公証人に伝えていた・・・
遺産は、アンジェルに50%、兄二人には25%ずつ。
アンジェルが20年間も実家に帰って来なかった理由が徐々に明かされていきます。
意識のない父親のそばで、3人の兄弟妹のそれぞれの思いがさく裂します。
寝たきりの父は、一体いつまでこの状態なのか?
「イスラエルのシャロン元首相は、8年寝たきりだった。ユダヤ人は、しぶとい。反ユダヤじゃない。特徴の描写だ」と次男ジョセフ。強烈な皮肉です。
かつては別荘で賑わった町も、20年の間に、すっかり寂れてしまっています。
父親はこの町をユートピアにしようと、クリスマスには大きなクリスマスツリーを広場に飾って、皆にプレゼントを振舞っていました。
別荘も売りに出されて空き家が増え、借家住まいの臨家の老夫婦は、大家が家賃を上げてきたのが悩みです。都会で暮らす孝行息子が気にせず暮らしてと家賃を自動引き落としにしますが、両親にはそれも心苦しいのです。
レストランに魚を届ける漁師の青年バンジャマンは、小さい時に父親に連れていかれた劇場で演じるアンジェルを観て以来、彼女に憧れています。
それぞれの思いが交錯する町に、難民のボートが漂着し、軍人たちが難民を捜索しています。「テロリストが紛れているかもしれないから、必ず通報するように」と軍人が伝えにきます。
「テロリストは、正規の手段でやってくる」と、ジョセフ。
ことごとく、こんな調子だから、婚約者に捨てられてしまうのですね…
アルマンとジョセフが、山道を整備していて、幼い弟二人の世話をする少女を見つけます。フランス語は通じません。もしかしたらアラブ人かもと、「シュクラン(アラビア語でありがとう)」と言ってみますが、3人とも無言・・・ 弟二人は、何があってもしっかり手をつないでいます。船で逃れてきた時に何があったのかと胸が痛みます。
ある瞬間、少女が初めて「シュクラン」と口にします。そして、家の背後にある石造りのアーチ型の鉄道橋に向かって、それぞれに名前を叫ぶ姿に明るい未来が見えたような気がしました。(咲)
「海辺の」で始まる映画が今年は何本もあります。先週は北国の海辺、こちらは別荘地の海辺に住む何組かの家族の悲喜こもごもを描いています。親を送る子どもたちがけっこうあっさり、うーん。こんなもの?しかしながら恋愛にはマメです。日本のほうが家族主義で愛憎が濃く、恋愛は淡泊な気がしました。個人主義のお国柄か。
一方、難民の子供たちが人目を避けて暮らし、ひもじさに耐えていたかと思うと可哀想でなりません。人が流れ着くのも日常の一つなんですね。日本と大違い。この子たちが出現したことで、自分のことだけだった人たちがなんとかしようと動きだします。そこが希望。(白)
かつて別荘地として賑わった地。そして今は来る人も少なく、寂れてしまった村? 町? 登場人物が少なくて、ほんとにほとんどいないのか、そうでもないのか街中の道、町の人などは写されていなくて、山道と登場人物だけなので、どのくらいの人が住んでいるのか、あるいは夏のシーズンだけは賑わうのか、その辺はわからない。
しかしこういう街は、今、ここばかりでなく日本でもある。最近観た作品の中でも、別荘地ではないけど、かつて栄え、今は寂れてしまった商店街とか鉄鋼業の町を描いた作品もあった。ここでは別荘地が舞台だけど、これはブームが去った街なのか、あるいは高度成長の時代には別荘地を持つ人がいたけど、今の時代はそんな余裕がなくなってしまったあらわれなのか。
私の伯母夫婦は伊豆高原に別荘を持っていたが、二人が80歳を過ぎてそんなに行けなくなり、結局手放した。でもなかなか売れなかった。私たちも別荘を持てるような余裕もなく、誰も買い取って引き受けられる人はいなかった。かつては別荘地だったけど、首都圏に1時間半もあれば行けるという近さから、そこに移り住んでしまった人たちもけっこういるようなところだった。この映画に出てくるマルセイユ近郊の別荘地も、そういうようなところなのかも。
でも長男は父がやっていたレストランを引き継いでやっているというから、そこに来る客がいるからやっているのだろう。この映画の中にはそういう客は出てこなかったので、その辺が舞台背景の街を理解するにはちょっと足りなかった。それにしてもフランスの映画だなと思った。日本だったら父親が倒れて、離れ離れに暮らしていた兄弟妹が集まってきたら、もう少し父親のこととか、この家のその後のことが描かれると思うけど、やってきた弟や妹の恋愛模様が描かれるという流れ。う~ん、なんだかなと思い、あまり共感できずだった。
最後のほうにとってつけたように難民の子供たちが出てきて、大人たちがよってたかって世話をするというように描かれていたけど、もう少しこの子たちの部分があるのかなと、実は期待していたので、これだけ?というのが印象だった。こちらのほうこそもっと描いてほしかった。どんな背景があるのか、結局どこから来たのかもわからず、あやふやで終わって残念。アーチ形の鉄橋と列車の通過光景が何度も出てきたのが印象的だった(暁)。
2016年/フランス/フランス語/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/107分
字幕翻訳:宮坂愛
配給:キノシネマ 提供:木下グループ
© AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/lavilla/
★2021年5月14日(金.) キノシネマ他、全国順次公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください