「アニメーションの神様、その美しき世界」シリーズは、WOWOWプラス(旧IMAGICA TV)が、優れたアニメーション作家にスポットをあて、その素晴らしい作品を最新の技術で修復・発掘することを目的としたもの。第一弾として2017年にロシアのユーリー・ノルシュテインが取り上げられました。
第二弾・三弾として、日本のアニメーションの発展に大きく貢献した二人の映像作家・川本喜八郎(1925-2010)と岡本忠成(1932-1990)の特集上映が組まれました。
いずれもノルシュテイン同様、ストップモーション撮影(コマ撮り)による立体アニメーションの分野で比類なき功績を残した世界的巨匠であり名匠です。
2020年に川本の没後10年、岡本の没後30年を迎え、作家・作品の歴史的価値を再評価・継承するタイミングとしても絶好の機会です。上映されるのはそれぞれの代表作5本ずつ合計10本・2プログラムで、全ての作品が日本の最新技術による4Kデジタル修復版です。
【上映作品】
◆Aプログラム=川本喜八郎5作品
『花折り』『鬼』『詩人の生涯』『道成寺』『火宅』合計80分
◆Bプログラム=岡本忠成5作品
『チコタン ぼくのおよめさん』『サクラより愛をのせて』『虹に向って』『注文の多い料理店』『おこんじょうるり』合計78分
上映作品詳細
https://www.wowowplus.jp/anime_kamisama2-3/#films
◆Aプログラム
川本喜八郎(1925-2010)
日本の伝統芸能を人形アニメーションに進化させた世界的巨匠。
人形にふさわしい物語を探し、自ら人形を造形し、演じさせた。
1925年東京・千駄ヶ谷生まれ。
祖母の影響を受け小学校時代から人形を作る。
東京府立工芸学校、横浜高等工業学校(現横浜国立大学)建築学科を経て、1946年に東宝撮影所美術部に入社。
五所平之助・衣笠貞之助・成瀬巳喜男らの作品の美術として参加したが東宝争議で解雇。
1951年、劇作家・飯沢匡に見出され「人形芸術プロダクション」創設に参加。
1958年に飯沢と共にCM制作会社「シバ・プロダクション」設立に参加。
1963年から1年半チェコスロバキア・プラハに留学。憧れのイジー・トルンカに師事。
トルンカ・スタジオで『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』(1964年)の撮影に参加。
1968年、第一作『花折り』を発表。日本の古典芸能に取材した題材で独自の表現を確立し、NHKの人形劇「三国志」など人形美術作家としても幅広く活躍。
岡本忠成の遺作『注文の多い料理店』は川本の監修で完成した。
国内各賞の他、海外映画祭でも多数受賞。
上映作品
『花折り』(1968年・14分)
初の自主制作人形アニメーション。原作は、壬生狂言の滑稽話。軽快なドタバタや飛躍のあるカットつなぎは後の川本作品とは大きく異なる。桃山時代の障壁画をイメージした平面的な美術は日本画家の壬生露彦が担当。恩師トルンカに生前唯一見せ、コメントをもらうことが出来た作品。
声の出演:黒柳徹子
『鬼』(1972年・8分)
「今昔物語」の中の「猟師の母鬼になりて子を噉(く)はむと擬するものがたり」に想を得た作品。老醜の果てに鬼となって子を喰らうという救いのない不条理と怪奇。文楽人形を模した兄弟の人形造形、般若の面、頭を上下させず摺り足で移動する能の所作。文楽三味線の名手・鶴澤清治と山口五郎の尺八による音楽。壬生露彦による漆黒に金蒔絵のスタイリッシュな美術。日本の能・文楽の流れを汲むアニメーション。
『詩人の生涯』(1974年・19分)
安部倍公房原作。セピア調のパステル画によるカットアウト(切紙)作品。川本自身のストライキに明け暮れた青春時代を重ね、「詩人」を「貧しい人々の痛みが分かる時代の証人」と解釈。赤いジャケツが空を舞って青年に被さり、自らを詩人として自覚する一連のイメージは鮮烈である。川本は本作以降、カットアウトで制作していない。「ユーリー・ノルシュテインのような作家が出現しては自分の出る幕はない」というのが理由。そのノルシュテインと川本は互いを尊敬し合う仲であった。
『道成寺』(1976年・19分)
「今昔物語」の「安珍清姫」や能の同名演目が題材。川本独自の人形アニメーションのスタイルを確立した記念碑的作品。僧侶を追う若い娘の設定を寡婦に変更。髪を振り乱して走る様をスローモーションによって印象付け、「執着と不条理」のモチーフを進化させた。背景に「斜投影図法」で平面に描かれた大和絵風建物や里山を置き、人形たちはその中を横へと移動する。それは絵巻物を繰り広げて読む感覚に極めて近い。手描きの紙をセットにはめこんだ日高川の激流、炎のオプチカル合成などの新技法も導入。崖や道成寺の階段や鐘楼で上下の縦方向の広がりへと劇的に展開する演出。
『火宅』(1979年・19分)
「大和物語」を原典とした能「求塚」を翻案した作品。誰も傷つけたくないと二人の男の求婚を拒んで入水した菟名日処女が500年間も業火に焼かれる。『鬼』『道成寺』に続く不条理三部作の完結編。立体的セットの奥行きと平面画の同居する美術、霧・モヤや重層的な炎の表現、薄暗い光の照明、能役者の観世静夫(銕之丞)の静かな語りと武満徹の重厚な音楽を得て集大成的な作品となった。
※各作品について、叶精二(かのう せいじ)氏の解説をもとに記載しました。
渋谷ヒカリエ8階にある「川本喜八郎人形ギャラリー」を偶然見つけて、無料なので何度か覗いたことがあります。「三国志」「平家物語」の人形が展示されていて、その人形たちからイメージする川本喜八郎の人形は、今回の上映作品では『道成寺』や『火宅』。まさに彼がたどり着いた世界観。
今回拝見した初作品『花折り』は、コミカルながら後の彼の世界が伺えます。『鬼』もまた、後に繋がる作品ですが、異色なのが『詩人の生涯』。こんな骨太の作品も作っていたのかと驚かされました。(咲)
◆Bプログラム
岡本忠成(1932-1990)
多彩な技法を駆使してアニメーションの可能性を開拓し続けた名匠
大阪府豊中市生まれ。大阪大学法学部を卒業し就職した後、日本大学芸術学部映画学科に再入学。卒業制作は同大初の人形アニメーション。1961年から持永只仁率いるMOMプロダクションでアニメーターとして腕を磨き、1964年に株式会社エコーを設立し、幾多の短編を制作。1972年からは川本喜八郎と共に「川本+岡本パペットアニメーショウ」を自主開催。国内に人形アニメーションを広めた。
岡本は「同じことは二度しない」との方針の下、スタッフのアイデアや即興性も積極的に採用。立体・半立体ストップモーションの人形(パペット)素材では木・布・粘土・和紙・杉板・毛糸などを使用。作画では水彩、マーカー、クレヨン、墨など画材も様々。題材もSF・民話・童話・小噺と幅広く、悲劇も喜劇も怪談もある。民謡・フォーク・義太夫・合唱曲など歌曲が挿入され、語りには方言・落語も起用。人間と動物たちの暮らしをつぶさに見つめる演出の視点は一貫しており、晩年になるほど日本人の情緒や土着性が色濃く反映されている。
『チコタン ぼくのおよめさん』(1971年・11分)
岡本初のセルアニメーション。通常セルのキャラクターは、輪郭線で括られ均一の色面で塗り分けられる。岡本はこれを「美術のイメージから縁遠い」と拒絶し、セルの表からポスターカラーなどで厚塗りし、クレヨンでタッチを加える新様式で臨んだ。
西六郷少年少女合唱団の歌う組曲に乗せて各章が進行。
『サクラより愛をのせて』(1976年・3分)
桂朝丸(現ざこば)の創作落語「動物いじめ」に着想を得た連作「人間いじめシリーズ」の3作目。関西弁のトークに乗せて、セルにマーカーで着色された半透明キャラクターが躍動する。
『虹に向って』(1977年・18分)
大掛かりなセットで展開される人形アニメーション。原作は大川悦生が信州・梓川にかかる雑炊橋(雑仕橋)にまつわる伝説を元に記した絵本「ふたりがかけた橋」。作りかけた橋が豪雨で流される、絶望したおりつが川に落ちるなどの劇的展開は原作にはない。及川恒平のフォークソングが流れる機織りや「刎(はね)橋」の具体的工法の検証による創作も加えられ、恋人たちの思いがより深く彫り込まれている。
『おこんじょうるり』(1982年・26分)
岡本の最高傑作として名高い。さねとうあきらの原作絵本には具体的記述のない力強い浄瑠璃歌唱シーンの創作、長岡輝子の東北弁、郷土玩具の泥人形や張子をイメージした土薫る人形造形、描画風セットなど、それまでの集大成的技巧が凝らされている。
『注文の多い料理店』(1991年・19分)
1990年、岡本は宮沢賢治原作『注文の多い料理店』の制作途上、道半ばにして死去。絵コンテも未完であったが、盟友・川本喜八郎が遺志を継ぎ翌91年に完成させた。銅版画風の繊細な線描によるセルアニメーションで、童話のイメージとは異なる病的不気味さが際立つ。初の長編となる次回作『ほたるもみ』の実験も兼ねていたと伝えられるが、その作品が制作されることはなかった。
※各作品について、叶精二(かのう せいじ)氏の解説をもとに記載しました。
「同じことは二度しない」というスタンスの通り、今回上映される5作品も、同じ人の製作なのかというほど違います。
『チコタン ぼくのおよめさん』は、合唱団の歌に合わせて物語が進行するのですが、NHKの「みんなのうた」を見ているよう。思いもかけない悲しい結末に、ほろっとさせられました。
『サクラより愛をのせて』は、軽快な関西弁の落語の世界を楽しみました。
『虹に向って』は、川を挟んで敵対している村人たちという設定が、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(2020年、池田暁監督)と同じ! そんな中で、恋するようになった二人が、橋を架けようと努力する姿に心を打たれました。
『おこんじょうるり』は、年老いて声も衰えたイタコのおばあ様の背中に隠れたキツネが、おばあ様の代わりに浄瑠璃を語る物語。キツネの恩返し。
『注文の多い料理店』は、宮沢賢治原作のよく知られた物語ですが、ちょっと風合いが違いました。
どれもどこか懐かしい、情緒溢れる作品です。(咲)
私は1952年生まれ。家にTVが来たのが1964年。前回の東京オリンピックの時。中学1年でした。それまではTVでアニメとか見ていなかったし、漫画にも興味はなく、子供時代に漫画本を読みまくったということもなかったので、アニメや漫画は、あまり見てこなかったのです。でも本にはとても興味があり、20世紀の新発見とか探検記、冒険物語そんなものばかり読んでいました。アマゾン河に興味を持ちました。子供の頃好きでよく読んでいたのは「ドリトル先生」「長靴下のピッピ」「ツバメ号とアマゾン号」でした。
そして、このアニメーション特集ですが、名前を知っている川本喜八郎さんのほうは観ることができず、岡本忠成さんの方だけ試写を観ることができました。岡本忠成さんの名前は知りませんでした。でも観たことがある、あるいは名前を知っている作品があり懐かしかったです。『注文の多い料理店』『おこんじょうるり』の2本です。岡本さんの名前は知らなくても子供の頃観ていました。そういうことってありますよね。一昨年、「江古田映画祭 3.11 福島を忘れない」で初めて知りあったブラジル在住の岡村淳監督と話していて、この方が作ってきた「数々の南米に関するTV番組、たくさん見ていました」という話で盛り上がりました。それにしてもアニメーションも面白いものがたくさんありますね。こういうものを創出できるアイデアを持っている人の特技すごいと思いました(暁)。
提供:株式会社WOWOWプラス
配給:チャイルド・フィルム
宣伝:プレイタイム
公式サイト:https://www.wowowplus.jp/anime_kamisama2-3/
★2021年5月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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