2021年03月27日
サンドラの小さな家(原題:Herself)
監督:フィリダ・ロイド(『マンマ・ミーア!』、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』)
共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル(『リチャードの秘密』)
出演:クレア・ダン(サンドラ)、ハリエット・ウォルター(ペギー)、コンリース・ヒル(エイド)
シングルマザーのサンドラは、たびたび夫から暴力を受けている。ある日2人の娘たちと共に夫のもとから逃げ出すが、3人が泊まれる場所がない。頼みの公営住宅には長い順番待ち、高くつくホテルの代金は滞りがち、自分で小さな家を建てたいと思いつく。サンドラはインターネットでセルフビルドの設計図を見つけ、清掃人として働いている家のペギー、建設業者のエイドら、思いがけない人々の協力を得て、家の建設に取り掛かる。しかし、束縛の強い元夫の妨害にあい…。サンドラは自分の人生を再建することができるのだろうか?
恋愛して結ばれた夫だったのに、暴力をふるうようになるとは。サンドラの痛みと絶望がせまってきます。DVが世界中で起こっていていつまでもなくならないのは、「女は男に従うもの」という考えが根強く染みているのでしょう。自分の身に起こったらと思うだけで、身体が固まる気がします。女性と子どもを受け入れるシェルターや相談窓口がたくさんできますように。数は圧倒的に少ないのですが、妻からDVを受ける夫もいます。暴力の原因は様々あるでしょうが、幸せでないことだけは確か。
「自分の家を持つ」のは誰もの目標ですが、それだけでなく「自分で自分の家を作る」ことができるんですね。「そんなに難しくないんだよ」と提唱している人をサンドラはネットで見つけます。そのノウハウも公開されているんですよ。時代は進んでいます(男女の問題は進んでないのに)。
夢の実現には障がいがつきもので、サンドラも協力者を得た後も何度となく問題にぶち当たります。二人の娘がとても可愛く、いじらしくサンドラの生きがいになっています。息子だったら「母親を守りたい」と、また違う展開になったかもしれません。
脚本を書きあげたら自分で演じることになったクレア・ダンの才能と演技力、これからも注目していきます。(白)
本作は主演で脚本も担当したクレア・ダンがシングルマザーの親友から「ホームレスにあってしまった」という電話を受けたことから生まれました。3人も子どもがいる女性が家を見つけられずにいるという状況は社会システムが崩壊していると強く感じたよう。このことが心の奥にずっと残り、あるときふっと1人の女性が社会システムから抜け出して家を建てる話を思いついたそうです。
彼女の親友が夫からのDVを受けていたのかどうかは分かりませんが、本作での描写は凄まじいものがあります。外に助けを求めるのも命懸け。やっと家を出られたかと思っても、住まいと仕事の確保が難しい。支援グループのサポートがないわけではありませんが、現実的ではありません。しかし、親権争いでは生活の安定が重要視されてしまいます。意外だったのはこんなに辛い思いをしながら、復縁を迫る夫が娘を通じて見せてきた幸せだったころの夫婦の写真を見て、主人公が幸せだったころの彼を愛おしんでいたこと。“そんなバカな”と思いますが、「あの頃のあの人に戻ってくれるなら」と思わせることもDV夫が使う搦め手の1つなんですね。かなりリサーチして脚本が書かれたのを感じます。
ラストは驚きの展開でしたが、主人公なら娘たちと乗り越えていけると思えるはず。辛い思いをしている方にこそ見てほしい作品です。(堀)
2020年/アイルランド・イギリス/英語/97min/スコープ/カラー/5.1ch/
配給:ロングライド
提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020
公式サイト:https://longride.jp/herself/
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