2021年03月20日

旅立つ息子へ  原題:Hine Anachnu  英題:Here We Are

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監督:ニル・ベルグマン(『ブロークン・ウィング』『僕の心の奥の文法』)
脚本:ダナ・イディシス
出演:シャイ・アヴィヴィ(アハロン)、ノアム・インベル(ウリ)、スマダル・ヴォルフマン(タマラ)、エフラット・ベン・ツール(エフィ)、アミール・フェルドマン(アミール)、シャロン・ゼリコフスキー(シャローナ)

グラフィックデザイナーのアハロンは仕事をやめ、自閉症スペクトラムを抱える息子ウリと田舎町でのんびり暮らしている。星形のパスタが大好きで、金魚のヨニとヤロンとダニエルをかわいがり、ウンベルト・トッツィの「Gloria」を歌いながら髭を剃るウリ。身体は大人でも、中身は純粋無垢な子ども。世話は大変だけど、アハロンにとっては満ち足りた日々だ。
そんな折、別居中の妻タマラが、ウリの自立を促すため全寮制の特別支援施設に入所させるという。裁判所からも、定収入のないアハロンは養育不適合と判定を受ける。仕方なく、ウリを施設に連れていく途中、乗換駅でウリは父と別れたくないとパニックを起こしてしまう。アハロンは、施設に行くのをやめ、ベエルシェバの同級生宅から、さらに海辺のリゾート地エイラットへとあてのない旅に出る・・・

タブレットで常にチャップリンの映画『キッド』を見ては笑みを浮かべるウリ。そのモデルとなったのは、脚本を書いたダナ・イディシスの弟ガイ。子どもの頃、チャップリンの無声映画を繰り返し観ていた弟。その後、自閉症と診断され、父が弟と特別な関係を作り上げたのをそばで見ていたダナ。彼女がふと、父の死後、弟はどうなるのかと考えたことから、本作は生まれたそうです。
親にとって、我が子はいつまで経っても子ども。自閉症なら、さらに先行きが心配になって過保護になるのもわかります。本作は、いつかは子離れしなくてはいけないことを描いた普遍的な物語。それがお互いのためとわかっていても、離れがたいものですね。

イスラエルが舞台ですが、パレスチナのことはまったく出てこないのどかなイスラエル。
父子が暮らす海辺に近い北部の田舎町や、一番南の紅海に面したリゾート地エイラットの風景を楽しみました。エイラットを、すぐそばのヨルダンのアカバから眺めたことがありますが、質素なアカバと比べて、リゾートホテルの林立する華やかなところでした。
途中、ネゲヴ沙漠にある大都市ベエルシェバで鉄道を乗り換える場面があって、思わずイスラエルの鉄道路線地図を探してしまいました。30年前にイスラエルを旅したことがありますが、ツアーでバス移動だったので、いつかイスラエルを鉄道で旅したいとそそられました。(咲)


男の人は助けを求めるのが下手で、困ったことがあっても自分に抱え込んでしまいがちという。本作の主人公は売れっ子グラフィックデザイナーというキャリアを捨てて、自閉症スペクトラムの息子を育てることに専念した父親。仕事より育児を選んだのが男性ということから、世の中が随分、変わったと感じる。しかし、父親がキャリアを捨てたのは本当に息子のためだけだったのだろうか。2人を見ていると共依存に陥っているのが分かる。父親は仕事を続けていくことに不安を感じ、育児に逃げ込んだ部分もあったのではないだろうか。
親は子どもより先に逝く。その日のために、息子を自立させることが親としていちばん大事なはず。父親にはそれが見えていないが、2人で逃避行を続けるうちに、息子の成長に気づいていく。ラストに息子がトラブルを自分で解決して前に進んだ姿を見た父親の安堵と寂しさの入り混じった顔が忘れられない。(堀)


親の気持ちで観ていました。「子どもはいつまでも子ども」ですが、遺して先に逝くことを考えなくちゃ。やっぱり母親のほうが現実的です。父と息子二人暮らしのシーンがいつも綺麗なパステル調の色合いです。部屋も着ている服も。息子を施設に置いて初めて離れたときに、初めて父親が黒っぽい地のシャツを着ました。お父さんの心情が現れているのかしら?
何も仕事を捨てなくてもいいのに、家でできる仕事をやっていれば、息子が早くに絵に興味を持ったはず。子育てしていれば絵を描いてやる機会は何度もあります。蛙の子は蛙、きっと絵の才能が早くに花開いたんじゃないかな。それがもったいないなぁと思ったこと。(白)


2020年/イスラエル・イタリア/ヘブライ語/94分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/PG12
日本語字幕:原田りえ 
配給:ロングライド 
© 2020 Spiro Films LTD.
公式サイト: https://longride.jp/musukoe
★2021年3月26日(金) 、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
posted by sakiko at 15:46| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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