監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン(ジェイコブ)、ハン・イェリ(モニカ)、アラン・キム(デビッド)、ネイル・ケイト・チョー(アン)、ユン・ヨジョン(スンジャおばあちゃん)、ウィル・パットン(ポール)ほか
1980年代のアメリカ アーカンソー州。韓国系移民のジェイコブは、ロサンゼルスの孵卵場で10年働いてきた。自分の土地を持ち、農業で成功することを夢見て高原に移り住んだ。だだっ広い土地に古いトレーラーハウスがあるだけなのに妻のモニカは「約束が違う」と呆然。長女のアンと身体の弱い長男デビッドに「大きな農園を作る」とジェイコブは意気盛んだ。まもなく韓国からモニカの母がやってくる。両親が働いている間、子どもたちの世話をするためだったが、一風変わったおばあちゃんらしくないおばあちゃんだった。
リー・アイザック・チョン監督の両親が移民一世として韓国からアメリカへ移住し、一家が苦労して農業で生計を立てた過去を背景にして描かれている半自伝的作品です。
どこの国でも移民1世はうんと苦労してきたと思いますが、ジェイコブの家族も例外ではありません。苦労が多くてモメがちな夫婦でしたが、母親が来て妻の気持ちの安定に一役買います。これ、夫の母ではダメでしょうね。妻のストレスが増えます。ユン・ヨジョンさんが絶妙です。
様々な出来事に翻弄されますが、おばあちゃんが川辺にミナリ(セリ)の種をまいて、どんなに有用な植物かデビッドに蘊蓄を傾けるシーンがあります。セリは逞しく根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから「子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きる」という意味が込められているそうです。このシーンがあったので、未来への希望が持てました。ゴールデングローブ賞 外国語映画賞受賞!(白)
©NBC
リー・アイザック・チョン監督受賞コメント
史上初のリモート開催となった授賞式に出席したリー・アイザック・チョン監督は、「本作をつくったきっかけはこの子です」と娘さんを抱き上げ、彼女を膝に乗せ受賞コメントを語った。
<「ミナリ」は家族の物語です。彼らは、自分たちの言葉で繋がろうとします。それは、どんなアメリカの言葉やほかの外国の言語よりも深いところにあります。それは心の言葉です。私もこの言葉を学び、特に今年はお互いにこの‘愛の言葉’で通じ合えることを願っています。
1980年代のレーガン大統領の時代、年間3万人の韓国人が移民してきていて、ジェイコブは韓国野菜が懐かしいはずと目の付け所はよかったのですが、なかなかうまくいきません。スンジャおばあちゃんは、ミナリ(セリ)は場所を選んで種をまいておけば勝手に育つことをちゃんと知っていて、一枚上手。日本では七草粥くらいしか一般には使わないセリですが、韓国料理では色々使われているようです。ミナリという響き、可愛いですね。
花札が好きな、いかにもの韓国のおばあちゃんを演じたユン・ヨジョンさん、アメリカ映画賞での演技賞22冠を達成!(2021年2月22日現在)アカデミー賞の助演女優賞の呼び声も高いです。このところ、『チャンシルさんには福が多いね』『藁にもすがる獣たち』と、毒舌なおばあちゃん役が光るユン・ヨジョンさんですが、ふっと思い出したのは、ドラマ「ホテリアー」(2001年)での素敵な社長役です。ますますのご活躍が楽しみです。(咲)
1980年代のアメリカを舞台に韓国から移民した夫婦の奮闘ぶりを描いた作品と聞くと、自分からは遠い話に思うかもしれません。しかし、頼りがいのある夫、父親と思われたいジェイコブと堅実な生活を望むモニカの心のすれ違いが描かれていると聞けば、共感する方は多いのではないでしょうか。どこの国でも男って夢見がちなのですね。
いさかいが絶えない両親に心を痛め、何とか2人を取りなそうとする姉弟の健気な姿に胸が熱くなります。夫も妻も子どものためにがんばっているのに、いつの間にか方向性がずれてしまったよう。「うちは大丈夫?」と思わず、自分の家庭を振り返ってしました。
夫婦に余裕がないので、モニカの母スンジャが子守りに呼び寄せられます。しかしガサツな感じがおばあちゃんぽくないとデビッドは受け入れられません。それでもスンジャは孫たちに無償の愛を注ぎ、崩壊しかけた家庭を繋ぎ留めました。家族への責任に雁字搦めになってしまうと心に余裕がなくなり、心がぎすぎすしてきますが、スンジャのようにおばあちゃんの立場になると大らかに接することができるのでしょう。
スンジャが韓国から種を持ってきて小川のほとりに蒔いたセリが根付きます。主人公一家がアメリカに根付いていくことの象徴かもしれません。(堀)
<第93回アカデミー賞 作品賞含む6部門ノミネート!!>
(3月15日発表。現地時間4月25日(日)に行われる第93回アカデミー賞授賞式での結果が楽しみです)
★作品賞
★監督賞(リー・アイザック・チョン)
★脚本賞(リー・アイザック・チョン)
★主演男優賞(スティーヴン・ユァン)
★助演女優賞(ユン・ヨジョン)
★作曲賞(エミール・モッセリ)
2020/アメリカ/116分
配給:ギャガ
(c) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/minari/
★2020年3月19日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー