監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン
ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ
1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。
縦構造になった階級社会を描く SF サスペンス・スリラー。よくこんなことを思いつくね、と呆れると同時に感心してしまいました。ガルダー・ガステル=ウルティアの長編初監督作品です。
ホテルの厨房かと見まがうところで、責任者らしい男性が厳しくチェックし、味や見た目はもとより髪の毛1本も見逃しません。それでも0階のプラットフォームに美しく盛られた食事がどうなるのかは、作り手の知るところではなく、知ろうとさえ思わないのかもしれません。
考えてみればわずかな食糧を奪い合っているのは、現実世界でも同じです。現実では階層が産まれながらに決まったり、努力次第で変えられることがあります。「穴」ではどこにいようと、1ヶ月経てば必ず移動するというところが異なります。
「奪い合えば足りず、分け合えば余る」という言葉がありますが、全員に行き渡るだけの食糧があっても下層まで届きません。たとえ下層で苦労しても、上層に移ればこのときとばかり幸運を貪り、分け合うことなど考えません。人間のイヤな部分がこれでもかとばかりにさらされます。そうしないと生き残れないので、ヘタレな私なら早々に脱落です。
豊かな国ではあり余り、廃棄される食品があっても、食べられない人には回っていかないドキュメンタリーを思い出しました。(白)
受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞
階級社会をデフォルメして描いている作品で、窓がなくて暗く汚い部屋、上から下りてくる残飯などが全体的にダークな印象を与えています。時折、目を覆いたくなるシーンも。この作品はホラーなのか、サスペンスなのか。情報が少ないゆえ主人公の先行きが気になって、なぜか目が離せません。
不条理な状況に立ち向かおうとする人も出てきますが、うまくいきません。彼らはヒーローではなく、むしろ人間としての矮小さが際立って感じられてしまいます。彼らに共感するか、どうかで見ている人の社会性が問われているような気がします。(堀)
2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
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★2021年1月29日(金)劇場公開