2021年01月17日

羊飼いと風船(原題:気球/英題:BALLOON)

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監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ(ドルカル)、ジンバ(タルギェ)、ヤンシクツォ(シャンチュ・ドルマ)

神秘の地・チベットの大草原。牧畜を生業に暮らす祖父、ジンバとドルカル夫婦、3人の息子の三世代の家族。昔ながらの素朴で穏やかな生活を続けてきたが、地方にも近代化の波は静かに押し寄せてきていた。長男は寄宿学校に進み、長い休みのときだけ戻ってくる。働き手の一人だった祖父が亡くなってすぐ、ドルカルの妊娠がわかった。すでに3人子どもがいるうえ、ドルカルの負担が増すばかりと女医は中絶を薦める。しかし、ジンバは祖父が転生してくると高僧に告げられて、それを頑なに信じている。

草原を細長い風船を持って走り回る兄弟。お父さんに叱られています。実は風船でなく、お母さんが寝床に隠してあった避妊具で、これがずっと後々まで大事なアイテムになります。慎み深いお母さんは最後まで名前を口に出しません。
一人っ子政策の中でも、牧畜民は3人まで子どもを持つことが認められているそうです。労働力ということなんでしょう。4人目からは罰金です。子どもたちは学齢期になると街の寄宿学校に入るので、手伝いを期待できず学費もかかります。ちょうど新旧世代の真ん中のジンバとドルカル夫婦は、両方の習慣と時代の流れに挟まって悩みも多くなります。男女分業の家では、たった一人の女性であるドルカルが全ての家事と子育てを引き受けるので、女医さんの説得も最もです。それで結局どうなったかは、映画を観てのお楽しみに。これも受け取り方がそれぞれで、自分の生き方を問われそうです。(白)


まずは兄弟が膨らませて遊んでいる風船の正体に思わず笑ってしまいます。でも3人の子持ちの母親ドルカルにとっては笑いごとではありません。
母親ドルカルの控え目ながらも力強い姿が素敵ですが、出家したドルカルの妹シャンチュ・ドルマのことも印象的です。深く被った独特の帽子で目元を隠していて、神秘的な雰囲気。過去の恋愛沙汰で出家することになったらしく、その相手である先生との再会が本作のもう一つの大事なエピソードになっていて、いったい何があったのか?と興味を惹かれます。
また、音楽をイランのペイマン・ヤズダニアンが担当していることにも注目しました。イラン映画のみならず、ロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』『二重生活』『スプリング・フィーバー』、リー・ユー(李玉)監督の『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』『ロスト・イン・北京』など、中国映画界でもお気に入りの音楽家です。

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2019年の第20回東京フィルメックスでは『気球』のタイトルで上映され、最優秀作品賞を受賞。授賞式では、父親役のジンバさんがトロフィーを受け取り、来日出来なかったペマツェテン監督のメッセージをスマホを見ながら読み上げました。
ジンバさんは、11月27日上映後のQ&Aにも登壇しましたが、映画での役柄と違って、とてもシャイな方でした。(咲)


食べていくのがやっとの牧畜生活。3人もの子供がいて、まだ小さく学費もかかる。それなのに避妊に協力的でない夫。妻との思いの差が描かれる。妻の妹はかつて恋人との交際の中で中絶をし(はっきりとは描かれていないがそういうことだと思う)、それを機に尼僧になった? その元恋人が姉の息子の学校の教師になって偶然再会するが、彼は彼女との経験を元に、彼女に断りもなく小説を書いていた。出版した本を渡されるが、ここにも男と女の思いの違いがある。
夫の父が亡くなり、僧が転生を予言する。亡くなった人が転生することを信じる宗教文化が生きている地域。まもなく妊娠がわかるが貧しい生活の中、子供を育てていけるか悩む妻。夫は子の誕生は父の転生と喜ぶが、妻は現実に直面し中絶を決断する。手術台にいる妻のもとに夫と長男が駆けつけ中絶を止めようとする? やめたのかどうかは描かれないが、妻は尼僧の妹とともにお寺参りに行き、街に出かけた夫は子たちとの約束の大きな赤い風船をふたつ買って帰る。しかし、風船は息子たちに渡した途端にひとつは割れ、もうひとつは青空のかなたに飛んで行ってしまう。家族はその行方を追う。問題に直面しながら解決されないこの問題を暗示しているよう。淡々とした草原の暮らしの中で、この夫婦や家族の将来はどうなっていくのだろうと思わせる(暁)。

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ジンバさん 第20回東京フィルメックス2019『気球』Q&Aで(撮影 宮崎暁美)

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ペマ・ツェテン監督 2015年第16回東京フィルメックス『タルロ』最優秀作品賞受賞 (撮影 宮崎暁美)


受賞歴
第76回ヴェネチア国際映画祭Sfera 1932 Award スペシャルメンション
第20回 東京フィルメックス 最優秀作品賞
第23回上海国際映画祭 最優秀監督賞/最優秀脚本賞

2019年/中国/102分/チベット語/ビスタ
配給:ビターズ・エンド
©︎2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.
http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/
★2021年 1 月 22 日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

◎「WORLD BREAKFAST ALLDAY」とのコラボドリンクメニュー
「WORLD BREAKFAST ALLDAY」外苑前店・吉祥寺店にて映画公開期間中販売
バター茶 580 円(税別)
温かいお茶にバターとヒマラヤ岩塩を混ぜて飲むチベットでは定番の伝統的なお茶
posted by shiraishi at 15:05| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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