企画・監督・撮影:堀井威久麿
企画・プロデューサー・撮影:前田 穂高
2019年10月、仕事で滞在していた香港で民主化デモと遭遇した堀井威久麿監督。デモに参加している人々の若さに驚き、彼らの思いを知りたいと聞き歩き、デモ隊と警察が衝突する中でも撮影を敢行。1ヶ月半の撮影期間を24時間(1日)の出来事として再構成。2019年秋の香港で何が起こり、若者たちが何を思っていたのかを28分で綴ったドキュメンタリー。
「香港画(ほんこんが)」/Hong Kongers(ホンコンガー)とは、香港人の意だが、壁画のようなイメージの映画にしたいという監督の思いも籠ったタイトル。
冒頭、朝5時の将軍澳と7時の海怡半島は郊外なので別として、旺角、中環、銅鑼湾、尖沙咀と、観光客にもお馴染みの香港中心部の町がデモ隊で埋め尽くされていて、それは私が何度も訪れて見慣れた香港とは全く違う光景でした。登場するのは、15歳から36歳の人たち。1997年の香港返還(回帰)から22年。 33歳のサム・イップ(葉錦龍)と、36歳のキャシー・ヤウ(邱汶珊)以外は、英国統治時代の香港の記憶がない人たち。それでも、「自由を取り戻したい」「楽しかった日々を取り戻したい」と語るのです。いつの日か、サムやキャシーといった英語名も付けなくなってしまう日が来るのを恐れるかのように・・・
私は返還の瞬間に立ち会いたいと、1997年7月1日をはさんで2週間、香港に滞在しました。英国統治最後の6月30日は、それこそ興奮の渦。深夜0時の返還の瞬間には、主要な広場という広場が人で埋め尽くされていました。30日の朝から降り続けていた雨は一段と激しくなり、翌7月1日はさらに大雨が続きました。英国の涙と言われましたが、実は香港人の涙だったのだとつくづく思います。早朝、深圳方面からトラックで入ってきた中国軍の姿は、ついに香港が中国のものになったという威圧感がありました。それでも、まだ大半の香港の人たちは「一国二制度」が50年間保たれることを信じていたのだと思います。徐々に中国は「一国」に重きを置いていることがあからさまになり、人々は立ち上がります。2014年9月からの雨傘運動、そして2019年の大規模デモ・・・ それも虚しく、ついに2020年6月30日23時、「香港国家安全維持法」が施行され、50年間の1国2制度は事実上崩壊してしまいました。
『香港画』の最後は、2019年12月31日の23時59分。スローガンを叫んでいた人たちが、声をそろえて新年を迎えるカウントダウン。かつての楽しかった頃の香港を思い出したかのような一瞬でした。香港の人たちが、香港人らしく過ごせる日の来ることを願うばかりです。(咲)
同じ街に住みながら、住民と警察の立場で対立しなければならない辛さ。そこにはただ今までのような生活がしたいだけというごくごく当たり前の気持ちがあるだけなのに、なぜそれさえ維持できないのだろう。本作は市井の人の声を次々と取り上げる。元警察官のキャシー・ヤウさんの証言は興味深い。
沖縄でも同じことが起きているが、状況はもっと厳しい。命の危険がすぐそこにある。プロデューサーは放水車の直撃を受けて負傷し、放水には催涙成分が混入されているため全身に強い痛みを感じ、その場でボランティアの救急隊に簡易的に治療してもらい、その後シャワーで体を洗っても肌の赤み、腫れは収まらなかったという。日本人の監督とプロデューサーが危険を顧みずに取材した本作は今の香港が映し出されている。
香港のことはTBSの報道特集でもよく取り上げられるが、それを見ただけで、知っているようなつもりでいた自分が恥ずかしい。日本にいる自分に何ができるかわからないが、香港の人たちのリアルな声に耳を傾けなくてはと思う。(堀)
門真国際映画祭2020ドキュメンタリー部門・最優秀賞
第15回 札幌国際短編映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞
2020年/日本/28分/広東語、英語、日本語/カラー/DCP/ドキュメンタリー
英語翻訳:前田 好子 広東語翻訳:Ken、Eugenia Leon 、Ho
宣伝:contrail
配給:ノンデライコ
公式サイト:http://hong-kong-ga.com/
★2020年12月25日(金) UPLINK渋谷、UPLINK吉祥寺ほか全国で順次公開
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