監督・脚本:伊藤俊也
ゼネラルプロデューサー:森千里
エダゼクティブプロデューサー:田中剛
スーパーバイザー:奥山和由
企画:鍋島壽夫
プロデューサー:芳川透
撮影:鈴木達夫
録音:中村淳
美術:稲垣尚夫
編集:只野信也
音楽:大島ミチル
語り:奥田瑛二
スクリプター:内田智美
制作担当:白石治
ラインプロデューサー:姫田伸也
出演
白洲次郎:浅野忠信
白洲正子:宮沢りえ
吉田茂:小林薫
麻生和子:梅宮万紗子
アダム・テンプラー
.ロバート・D・ヒース・Jr.
ベネディクト・セバスチャン
松本烝治:柄本明
吉田満:渡辺大
近衛文麿:松重豊
芦田均:伊武雅刀
美濃部達吉:佐野史郎
幣原喜重郎:石橋蓮司
楢橋渡:大鶴義丹
小林秀雄:青木崇高
ツナ:浅田美代子
昭和天皇:野間口徹
第2次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)占領下の日本で外務大臣だった吉田茂が一刻も早い日本の独立を求めて日本の再出発のために呼び寄せたのは、開戦前から既に日本の敗戦を予測し、実業の第一線を退いて郊外で農業に専念していた白洲次郎だった。流暢な英語を話し、せっかちで喧嘩っ早くいかなる時でも物事の筋を通す男だったからこそ、吉田は「日本独立」を達成するための相棒として呼び寄せた。
そしてGHQとの交渉役となる終戦連絡事務局の仕事を託す。こうして白洲は交渉の最前線に身を置くが、GHQは米国主導の憲法改正を推し進めようとする。彼は吉田茂の右腕としてGHQとの交渉の最前線で辣腕を振るい、GHQをして「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめることになる。親子ほども年の離れた二人の絆を軸に、終戦から憲法制定、独立に至る歴史の裏側のドラマを、日本側の視点からイマジネーションを交えて描き出した。本音で激論を交わしながら、GHQと渡り合い、国の難局に立ち向かう吉田と白洲。二人にあったものは、時代や状況がどうあろうと変わらぬ人としての誇り高さだった。
吉田茂を小林薫が演じ、白洲次郎を浅野忠信、妻正子を宮沢が演じる。監督は『プライド 運命の瞬間』『花いちもんめ。』『ロストクライム 閃光』などの伊藤俊也。
日本国憲法が制定されてもうすぐ75年が経ちます。GHQが草案を作り、制定されたと日本史の授業で学びました。しかし、その舞台裏には日本政府とGHQの間に緊迫したやり取りがあったのだとこの作品は伝えます。監督の主観が入っていることを考慮しても、日本側にもGHQ側にも憲法の草案を作るために奔走した人たちがいたことなど、歴史の教科書からは学べないことを知っておくべきかもしれません。そしていつの時代も官僚は政治家に翻弄されるものだということも伝わってきます。
ところで、吉田茂をえんじたのは小林薫ですが、特殊メイクでしょうか、一見しただけでは小林薫とは気が付きません。写真などで見る吉田茂そのもの。ご本人の演技もさることながら技術スタッフのがんばりも注目したいところです。(堀)
小学3年生の時に終戦を迎えた伊藤監督。終戦1ヶ月前には生まれ育った福井市で空襲に遭い、終戦の3年後にはM7の福井地震から生き延びた。そんな強烈な戦中戦後体験を持つ伊藤俊也監督。チラシ、ポスターにある『日本独立』というタイトルより上部に書かれた「戦争に負けても、この国は誰にも渡さない」というこの言葉は、この体験から来るものなのでしょう。
「戦後の日本を振り返る時に、アメリカとの関係というのは強く意識せざるを得ないものですが、そういうプロセスの中で、戦後の日本を規定した二大事件は、東京裁判(極東国際軍事裁判)、そしてもう一つが日本国憲法の成立だと考えています。日本国憲法の成立に関わる映画を作りたいと思い、『プライド 運命の瞬間』を作ってから2~3年経った頃、シナリオを作ったのです。かなり改稿して現在のシナリオになってはいますが、基本的にはその時に作ったものです」と語っている。
天皇制の根強さを知り、その存続なくしては安定した占領統治はなし得ないと判断したGHQは、ソ連に介入の余地を与えぬよう、ソ連が参加する極東委員会が発足する前に憲法を作り上げてしまおうという目論みがあったようだ。その指令の元、いくつかの憲法改正案が作られたが、日本政府の憲法問題調査委員会(委員長・松本烝治国務大臣)が作った「試案」は、天皇の統治権が残され、戦前の大日本帝国憲法(明治憲法)とあまり変わらない内容だったらしい。そのためGHQは、このまま日本人にゆだねていてはソ連の天皇制廃止論が出てくると危惧し、独自の草案を作り日本政府に指針として示した。それゆえ押し付けられた憲法という人たちがいる。GHQは憲法草案をホイットニー准将以下25人の即席の起草チームで、わずか9日間でまとめあげた。「自衛権すら持たないで、それを国家と言えるのか!」と松本大臣が激高して言うシーンがあったけど、敗戦国で、あの状態で、軍隊を持つというのは当時は表立っては言えなかったんじゃないかな。ここは監督の思いなのかも。
押し付けられた憲法かもしれないけど、国民主権、人権や女性の権利も含まれた平和憲法ができてよかったんじゃないかなと私は思う。少なくとも閣僚たちが作った憲法草案よりはましな憲法なんじゃないかなという気がする。松本試案が通っていたら、女性の地位はずっと低いままだったと思う。「占領時代をやり過ごし、早く独立を果たせば憲法は変えられる」と吉田茂はGHQに面従腹背を決め込み、交渉役として白洲次郎を送り込む。吉田茂と白州次郎がGHQの強圧的な「指令」にどう向き合ったのかが本作の軸である。
このGHQと日本政府の憲法問題調査委員会のやりとりの中でベアテ・シロタさんのことが何回か出てきたけど、彼女のことを描いたシーンは、どうかな?と思った。実はベアテさんにインタビューしたことがある。あの中で「ベアテが、私が人権条項を担当したと得意げに話していた」「22歳の若い女にしてやられた」というような台詞のシーンがあったけど、当時はトップシークレットで、誰が担当したということは長い年月伏せられていたとベアテさんは言っていたし、彼女はその時22歳という若さだったので、そんなに若い女性が草案作りに加わっていたということを知れば、日本の閣僚たちは「専門家でもない若い女が草案を作ったということにいい気はしないだろうと通訳に徹していた」と語っていた。彼女が草案作りにかかわっていたということは、何十年もたってから公表されたらしいので、あの場面であのような台詞になるようなことはなかったのではないかと私は思う。彼女は5歳から15歳まで戦前の日本に住み、日本の女性の姿(地位)を見て育ったからこそ、草案に男女平等の項目を入れたと語っていた。市川房枝さんが1952年にアメリカに来た時の通訳をしたけど、その時も、男女平等の草案にかかわっていたことは言えなくて苦しかったと言っていた。彼女は1年半GHQで仕事をした後、アメリカに行き、日本の文化を紹介する仕事についた(暁)。
『ベアテの贈りもの』ベアテ・シロタ・ゴードンさんインタビュー(2005年)
GHQ側の草案作りの話が出てきます。
http://www.cinemajournal.net/special/2005/beate/index.html
ベアテさんがお尻ふりふり歩いていくのを、若い男性が真似してついていくという描き方は、ちょっとどうかと思いました。ベアテさんだけでなく、ほかのメンバーだって、憲法の専門家ではなかったのですから・・・
それはともかく、戦後の日本政府の葛藤、そして負けても屈しないという頑強な思いが伝わってくる映画でした。宮沢りえ演じる白洲正子も、凛として素敵でした。
撮影は神戸、大阪、京都などの趣のある場所を選んで行われています。富士山の見える浜辺で吉田茂と白洲次郎が語り合う場面も、実は淡路島だとか。
スタッフ日記で、神戸のロケ地のことに少し触れています。(咲)
神戸・パルモア学院休校 そして『日本独立』ロケ地のこと(咲)
『日本独立』公式HP
2020年製作/127分/G/日本
配給:シネメディア
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