2020年10月11日

アイヌモシリ(リは小文字)

2020年10月17日(土)より渋谷ユーロスペース、11月14日(土)より札幌シアターキノほかで公開 劇場情報

AINUMOSIRビジュアル.jpg
(C)AINU MOSIR LLC/Booster Project

監督・脚本:福永壮志
プロデューサー:エリック・ニアリ、三宅はるえ
エグゼクティブプロデューサー:中林千賀子、宮川朋之、ジャッド・エールリッヒ
共同プロデューサー:福永壮志、ドナリ・ブラクストン、ジョシュ・ウィック
撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
編集:出口景子、福永壮志
音楽:クラリス・ジェンセン、OKI
制作担当:星野友紀
出演
カント:下倉幹人
デボ:秋辺デボ
エミ:下倉絵美
コウジ:結城幸司
吉田先生:三浦透子
トンコリ伝承者::OKI
岡田(新聞記者):リリー・フランキー

デビュー作『リベリアの白い血』で、ニューヨークに移住するアフリカの移民の苦悩を描き高く評価された福永壮志監督が5年をかけて作り上げた2作目は、自身が生まれ育った北海道を舞台に阿寒湖のアイヌコタンで暮らす少年の成長と、現代のアイヌ民族の現状と伝承について映し出した。
14歳の少年カントはアイヌの民芸品店を営む母親のエミと北海道阿寒湖畔のアイヌコタンで暮らしている。アイヌ文化に触れ、行事に参加しながら育ってきたが、一年前の父の死をきっかけにアイヌの活動に参加しなくなってしまった。アイヌの伝承文化に距離を置く一方、友達と始めたバンドの練習に没頭するようになり、中学校卒業後は高校進学のため故郷を離れようと思うようになった。
亡き父の友人で、アイヌコタンの人たちの中で中心的存在のデボは、カントに自然の中で育まれたアイヌの精神や文化について伝えようとする。そして、長年行われていない熊送りの儀式、イオマンテの復活のために密かに育てている子熊の世話をカントに任せる。世話をするうちに子熊への愛着を深めていくカント。
初主演を果たしたのはアイヌの血を引く下倉幹人。演技は初めてだが力強い眼差しとアイデンティティーにゆれる印象的な主人公・カントを等身大で演じた。その他の主要キャストもアイヌの人たちが務めている。カントの父の友人デボに扮するのは、阿寒に暮らし多岐にわたる活躍をみせる秋辺デボ。アイヌの伝統を重んじるデボ役を体現している。カントを優しく見守る母のエミ役は下倉幹人の実の母親でミュージシャンの下倉絵美が担当した。三浦透子、リリー・フランキーら俳優人がゲスト出演している。

*アイヌモシリとは:「人間の静かなる大地」を意味するアイヌの言葉。アイヌ民族は自分たちの生活圏をアイヌモシリと呼んだ。「アイヌの大地」「アイヌのくに」とも解されている。

前作『リベリアの白い血』でインタビューした時、次作は「アイヌ」を描いた作品を考えていると答えていた福永壮志監督だったので、この作品を観て感慨深かった。
アイヌ民族の人たちの文化と伝承について興味があった私は、北海道に行ったときに平取町立二風谷のアイヌ文化博物館を訪ねたりしていた。アイヌの文化は、北海道の地名などに残っていることもあるけど、言葉の伝承などはかなり失われているのかもしれない。今はほとんど観光的なものも多くなってしまっているような感じだが、何ヶ所かのアイヌコタンでかろうじて残されている。私がアイヌ民族のことを知ったのは中学時代。アイヌ民族の歴史に興味を持ったけど、アイヌ模様にも興味を持った。衣服などに刺繍されている幾何学的な模様はとても美しくて力強い。それにしても長年行われていない「イオマンテ」の儀式と、この映画では出てきたけど、阿寒湖のアイヌコタンでは実際、今でも行われているのだろうか。
主人公の実の母親である下倉絵美さんが出演していた『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』(16年/佐藤隆之監督)も印象的なアイヌのアイデンティティを描いた作品だった。これは妹の郷右近富貴子さんと共に出演している。下倉幹人君も出演している。(暁)


北海道出身なので、先住民のアイヌの人たちは身近に思えています。生まれた利尻の村はアシリコタンと呼ばれていましたし、小刀はマキリと言い、チャランケ(談判、話し合い)という言葉も生きていました。札幌の高校生のときにアイヌの民族衣装を調べて、現物が見られる北大植物園に通ったことがありました。今はネットでもなんでもありますが半世紀前のことです。
北海道・白老(しらおい)に今年7月「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンしました。HPはこちら。9月こそこそ里帰りしていたので、足を延ばして訪ねてきました。国立の施設でアイヌ文化の保存と継承のために作られたものです。ポロト湖と森を背景にした広大な土地に、博物館や交流ホール、学習館、工房などの建物、再現されたチセ(家)、イベントの行われる広場などが点在して多くの道民や観光客が訪れていました。コロナ禍中だったので、入場制限があり、予約が必要でした。入って感じたのは、知る機会と働く場所が増えて良かったということでした。
この映画では幹人くんの強い目に魅了されました。多感な時期に自分のアイデンティティに向き合うのは必須なのでしょう。幸多かれと祈ります。東京・八重洲にもアイヌ文化交流センターがあります。こちら。里帰り日記はこちら。(白)


2018年9月2日~3日に開催された「キルギス映画祭 in Tokyo」で上映された『北海道のマナス』は、キルギス人が阿寒湖アイヌコタンを訪れたドキュメンタリー映画でした。キルギスの英雄叙事詩「マナス」を世界各地で語るプロジェクトの一環なのですが、「マナス」にはアイヌのことも語られているそうです。
アイヌ文化とキルギス文化には模様や口にあてて演奏する楽器など、共通点が数多くあることも紹介されていました。『北海道のマナス』の撮影で阿寒湖を訪れたキルギスの人達が皆、「異国にいる気がしない」と言っていたのも印象的でした。恐らく、『アイヌモシリ』に出演されている方たちも登場していたのではないかと思います。日本では消え去りそうな少数民族のアイヌですが、地球規模で見れば、同様の文化を持つ人たちがいるのだと、少し心強くなりました。それでも、アイヌ語という文化の根幹を成す言語がいつまで存続するのか心配です。
福永壮志監督の描いた本作が、貴重なアイヌ文化の記録の一つになるのは間違いありません。(咲)


メインキャストの多くは演技経験のないアイヌの方々が演じられています。主人公のカントと母親は本当に親子です。そのせいか、最初はフィクションではなく、ドキュメンタリー作品かと思ってしまいました。そのくらい、みなさん自然なのです。
阿寒には高校がなく、中学を卒業すると、高校に通うために町を出て行きます。あそこで暮らしているのは、中学生以下の子どもたちと年配の人ばかり。そんな状況での中学生の思春期の成長の物語です。アイヌの世界を描いていますが、思春期特有のもやもやした気分や大人に対する反発は誰にでもある感情ではないでしょうか。映画は答えを提示しませんが、見ている側の想像力を広げてくれ、印象に残る作品となっています。(堀)


公式HP
2020年製作/84分/G/日本・アメリカ・中国合作
配給:太秦

*参照
シネマジャーナル『リベリアの白い血』福永壮志監督インタビュー記事
http://www.cinemajournal.net/special/2017/liberia/index.html
posted by akemi at 09:31| Comment(0) | 日本・アメリカ・中国合作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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