監督・脚本・撮影:河瀬直美
原作:辻村深月「朝が来る」文春文庫
共同脚本:高橋泉
音楽:小瀬村 晶、An Tôn Thât
出演:永作博美(栗原佐都子)、井浦新(栗原清和)、蒔田彩珠(片倉ひかり)、浅田美代子(浅見静恵)、佐藤令旺(栗原朝斗)、中島ひろ子(片倉貴子)
長い不妊治療を経て、子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」で、産まれたばかりの男の子を迎え入れる。それから6年、朝斗と名付けた息子と3人幸せな日々を送っていた。
突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から「子どもを返してほしい」という電話がかかってきた。当時14歳だったひかりとは、朝斗を引き取る際一度だけ会ったことがある。泣き泣き子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。意を決して清和と佐都子が迎えた若い女性は、ほんとうにひかりなのか?
昔々なら結婚する(させられる)こともあった14歳。妊娠も出産も可能な年頃です。ひかりが一人で訪れて出産した施設ベビーバトンには、いろいろな事情で産んでも育てられない女性たちがいました。この施設の代表を演じていたのが、浅田美代子さん。人気テレビドラマ「時間ですよ」でデビューして天然キャラだったのを思い出します。わけあり女性たちを迎え入れ、産まれた子どもの幸せを考える慈愛深い女性を演じています。
前半は佐都子一家、後半はひかりの事情が描かれ、追い詰められていくひかりの幼さが際立ちます。ドラマチックな展開に思わず見入り、子どもと二人の母親の幸せを祈る気持ちになりました。あ、父もね(幼い父は蹴飛ばしたくなった)。
特別養子縁組の説明はこちら。(白)
幼稚園の先生から電話がかかってきて、「お子さんがお友だちをジャングルジムから突き落とした」と言われたけれど、子どもは「やっていない」と主張したら? 佐都子は息子が嘘をついていたとしても息子の言うことを信じてあげようとします。親として子どもに対して揺るぎない信頼を置いている母親を実生活でもお子さんがいる永作博美がリアリティを感じさせながら演じていました。こんな母親になりたい。自分だったら子どもが信用できず、なぜそんなことをしてしまったのか、私の育て方のどこがいけなかったのかと自分自身を責めてしまったような気がします。
14歳で妊娠し、子どもを産んだひかりを演じたのは蒔田彩珠。ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」で是枝裕和監督から演技を高く評価され、『海よりもまだ深く』、『三度目の殺人』、『万引き家族』に出演。是枝作品の常連となっている実力派です。本作では家族の中に居場所が見つけられずにいる中、思いがけず妊娠してしまい、ますます孤立するという難しい役どころを見事に演じていました。見ている立場では、「両親がもっと違った受け止め方をしてあげていれば」と思ってしまいますが、実際に彼女の親の立場になったら…。
ほかにも「自分だったら?」と考えてしまう場面がいくつもありました。親としての姿勢が問われる作品なのかもしれません。(堀)
河瀨直美監督は、辻村深月の原作「朝が来る」に出会い、二人の母をつなぐ子供「朝斗」のまなざしを映像化できれば素晴らしいなと感じたと語っています。
映画は、朝斗がまなざしを向ける二人の母の姿を丁寧に描いています。「特別養子縁組」の制度のお陰で息子を持つことができた佐都子の朝斗に向ける溢れる愛情。そして、恋をして身篭ったものの、育てるのを諦めるように諭された14歳の少女。奈良の実家を離れて、瀬戸内海の似島にあるNPO法人ベビーバトンが運営する施設に篭って出産の日を待つ姿、そして、その後に彼女が歩んだ人生・・・
佐都子を演じた永作博美さんが、河瀬直美監督の「役積み」の手法を語っているのを先日聞きました。撮影に入る前に、1か月間、実際にタワーマンションに親子3人で暮らしたのだそうです。産みの母ひかり役の蒔田彩珠さんも実際に奈良で暮らして学校に通ったのだとか。
これまで河瀬直美監督の作品は、ちょっと難解という印象があったのですが、今回は、丁寧に作られた映画を堪能しました。(咲)
子供を授からなかった夫婦と、若くして妊娠してしまった少女。「特別養子縁組」制度によって、両者は知り合い、夫婦は息子を育てることになった。その息子朝斗をめぐっての葛藤が描かれる。
これまでの河瀬監督の映画とはちょっと毛色が違うと思ったが、実父と生き別れ、実母と離別し、母方の祖母の姉に育てられた自身の境遇から作られた初期の作品『につつまれて(山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞受賞)』や、『かたつもり(山形国際ドキュメンタリー映画祭奨励賞受賞)』のことを考えると、やはり「生き別れと家族について」の監督の思いにつながる作品なのかもしれない。
でもわからないのは、借金取りに追われて自身の生活もままならない状態なのに「息子を返して」と、ひかりが栗原家にやってきたこと。そして相手の男の子のこと。妊娠したことによって彼女の人生は大きく変わってしまったわけだけど、その男の子は彼女が妊娠したことに対してどのような態度だったのだろう(暁)。
2020年/日本/カラー/139分
配給:キノフィルムズ、木下グループ
(C)2020「朝が来る」Film Partners
http://asagakuru-movie.jp/
★2020年10月23日(金)よりロードショー
【関連する記事】