2020年10月04日

博士と狂人 原題:The Professor and the Madman

2020年10月16日(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー 劇場情報はこちら

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(C)2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.

監督:P.B.シェムラン 
脚本:トッド・コマーニキ、 P・B・シェムラン
撮影:キャスパー・タクセン
出演:メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサン、スティーヴ・クーガン 
原作:サイモン・ウィンチェスター著「博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話」

孤高の学者と呪われた殺人犯。
世界最大の英語辞典誕生に隠された、真実の物語。


初版発行まで70年以上の歳月を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」通称OED。この辞典の礎を築いたのは「異端の学者」と「殺人犯」だった。この事実をドラマチックに描いたノンフィクション本の映画化。
19世紀、独学で言語学博士になったマレーはオックスフォード大学で英語辞典編纂計画の中心となっていた。シェイクスピアの時代まで遡りすべての言葉を収録するというプロジェクトが困難を極める中、博士に大量の資料を送ってくる謎の協力者がいた。その協力者は殺人を犯し精神病院に収監されていた。貧しい家に生まれ学士号を持っていない学者マレーと、元軍医というエリートながら精神を病み殺人を犯してしまったアメリカ人のマイナー。辞典づくりというロマンを共有したふたりは固い絆で結ばれていく。しかし、大英帝国の威信をかけた一大事業に犯罪者が協力していることが明るみになり、プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまった。ついには時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んでいく。
構想から20年。原作の映画化に名乗りを上げたのが、マレー博士を演じるメル・ギブソン。狂人マイナー役にはショーン・ペン。南北戦争で心を病みながらも辞典づくりで心救われるマイナーに挑んでいる。

この作品の試写を観ながら、やっぱり辞典作りの肝は「言葉集め」なのだと思い、『マルモイ ことばあつめ』のことを思いながらこの作品を観た。『マルモイ ことばあつめ』は1940年代の朝鮮半島、京城(日本統治時代のソウルの呼称)が舞台で、全国の言葉・方言を集めた朝鮮語の辞典を作る話。日本の圧力で朝鮮語が使えなくなる中、朝鮮語の辞典を作るための言葉集めが描かれる。辞典を作る学者と一方の主人公は言葉はしゃべれても文字は知らない。ただ機転が働く。こちらの「言葉集め」は、地方から京城に来ている人たちを集め、ひとつの言葉に対して、その人たちの故郷ではどのように言うのか聞き、方言を集めていた。
作りは違っても辞典を作る苦労は同じ。いかにたくさんの言葉を集めるか。言葉がなくならないように、あるいはなくなる前に記録する。それには膨大な時間がかかる。そしてある意味、言葉に取り付かれないとできないのだなと思った(暁)。


1998年に「博士と狂人──世界最高の辞書OEDの誕生秘話」が刊行されると全米で大反響を呼び、劇的なストーリーに魅せられたメル・ギブソンが映画化に名乗りをあげました。構想から約20年。2016年に撮影が開始されましたが、妥協を許さないメル・ギブソンと製作会社の間でトラブルが起こり、裁判までに発展。OED編纂に人生を賭けたマレーの姿が重なります。
本作はOED編纂が本筋ですが、ショーン・ペンが演じたマイナーの秘めた愛もサブストーリーとして展開されます。マイナーは妄想から射殺してしまった男性の家族に援助を申し出るのですが、男性の妻イライザに拒否されました。しかし、そのやりとりを通じて。イライザが文盲と分かり、マイナーが読み書きを教えていくうちに愛が芽生えるのです。とはいえ、敵味方のような立場の2人は気持ちのままに生きることはできません。マイナーが選択したあまりにもストイックな決断に切なくなってしまいました。(堀)


19世紀、全世界に覇権した大英帝国。その威信をかけて、英語がいかに世界各地に波及したかを証明する為に編纂されることになったのがオックスフォード英語大辞典(OED)。
3代目のOED編集主幹に任命されたジェームズ・オーガスタス・ヘンリー・マレーは、家が貧しく、大学に行かず独学で言語を学んだ人物。フランス語、イタリア語、ドイツ語、ギリシャ語、ラテン語などを習得。ヘブライ語とシリア・アラブ語の聖書は辞書なしに読めたそうです。語源を紐解くのには、古い言語にも通じていないと出来ないから、まさにうってつけの語学の天才。それでも、言語は生き物。全世界の英語を使用する地域の人たちから、使われ方を収集して辞典を出版しても、その時点ですでに古くなっているというジレンマがあったと思います。今や、ネット時代。電子辞典なら変化にすぐ対応できるのでしょうが、それでも追いつかないスピードで言語も変化していくような気がします。一方で言語もグローバル化が進んで、地域差が薄れていくという寂しさも感じます。(咲)


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公式HP
2019年製作/124分/G/イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド合作
配給:ポニーキャニオン

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