2020年10月03日
82年生まれ、キム・ジヨン(原題:Kim Ji-young: Born 1982)
監督:キム・ドヨン
原作:チョ・ナムジュ
出演:チョン・ユミ(ジヨン)、コン・ユ(夫 デヒョン)、キム・ミギョン(母 ミスク)、コン・ミンジョン(姉 ウニョン)、キム・ソンチョル(弟 ジソク)、イ・オル(父 ヨンス)、イ・ボンリョン(ヘス)
1982年生まれのジヨンは大学の先輩のデヒョンと結婚し、出産のために会社を辞めた。デヒョンは仕事が忙しく、ジヨンは家事と一人娘のアヨンの育児にかかりきりで疲れがたまっていた。
新年はいつも夫の実家。義姉も帰省し、夫一家が歓談している間嫁は休むひまもない。突然ジヨンが実家の母の口調で「うちの娘も里帰りさせて」と話し始め、みんなはあっけにとられる。ときどきジヨンが他の人間が乗り移ったように変わるのを、夫のデヒョンだけが知っていた。ジヨン本人には全くその記憶がない。デヒョンは精神科医に相談していたが、本人にまだ言えずにいた。
同名の原作は韓国でも日本でも異例の売れ行きだったそうです。日本以上に男性優位の韓国で、時代が進んで目が開かれてきた女性たちが「これはおかしい!」と声をあげ始めました。社会でも家庭の中でも男の子が優遇され、女の子はそれを支える役割を担ってきました。男の子が生まれることばかり期待している親世代に、あなたは父親から生まれたのか?と言いたくなります。日本版の表紙には、観光地の看板のように顔がくりぬかれている女性が描かれています。誰でも顔を当てはめて「これは私のこと」と感じた女性が多かったはず。
ジヨンが”ほかの人間になって自分の心身の危機を訴えた”のは、自分の意見を言えなかったからでしょう。そこまで追い詰められていたことが痛ましいです。チョン・ユミとコン・ユはこれが3度目の共演で初の夫婦役です。繊細な演技の息もぴったり。デヒョンは決して無理解な夫ではありませんが、自分の育ってきた社会の認識から出て想像することができません。夫婦間のことだけでなく、女性が社会で期待される役割分担や、無意識の差別などが織り込まれて、自分や周りのことを振り返るきっかけができます。カップルで観ると認識の違いが明らかになりそうです。それで別れても責任は負えませんが、話し合ってより理解を深められたらいいですよね。
助演の俳優陣の手堅い演技にも支えられ、チョン・ユミは第56回大鐘賞映画祭で主演女優賞受賞、キム・ドヨン監督は第56回百想芸術大賞で新人監督賞を受賞しました。(白)
1人きりで抱える育児は本当に辛い。私もかつて心を病み、大丈夫と思えるまでに6年かかりました。夫はデヒョンのように病んだ私を気遣ってくれましたが、所詮は病に寄り添い、育児に協力するというスタンス。自分の問題としてとらえていませんでした。そこの認識の違いは大きい。作品からも夫婦の意識のずれが伝わってきます。
しかし、同じ経験をしたからこそ、見えてくるものもある。こちらが分かってくれないと思うように、夫もどうすればいいのかわからないことを妻に理解してもらえず辛かったのだと本作を見て、今更ながらに気づきました。
主人公は82年生まれ。韓国と日本では状況が違うかもしれませんが、87年に就職した私は男女雇用機会均等法2年目。年上の女性たちから、羨ましい気持ちからの過剰な期待を押し付けられました。その年上の女性たちの子どもがジヨン世代のはず。過剰な期待は私世代以上に強く押しつけられたのかもしれません。(堀)
1982年に韓国で生まれた女の子の名前の中で一番多かったのが、ジヨン。そして、韓国で一番多い名字がキム。まさにキム・ジヨンはどこにでもいる普通の女性。原作が出版された時に、韓国で100万部を超える大ヒットとなったのも、女性の社会進出が進む中で、育児や家事は女性がするものという考えが根強く、主人公の悩みが普通の女性たちの共感を得たからだといわれています。一方で、韓国では男性からの反発もあって、映画化にあたって反対意見もあったそうです。背景として、男性だけが軍隊に行く義務があることや、家族のために働いて犠牲になってきたという思いがあって、女性たちのほうが優遇されてきたじゃないかという被害者意識があるそうです。兵役の義務もない日本男子はもっと女性に協力すべきと思わず思ってしまいます。
出版のあと、男性も産休や育休などを取りやすくするなどの法案、いわゆる「キム・ジヨン法案」が国会で発議されたなど、韓国社会に大きな影響を与えた小説の映画化。さらに世界へも、男女の役割分担や、男女格差を考えるきっかけを与えてくれるでしょう。
ちなみに独身の私には、キム・ジヨンの思いにあまり感情移入できませんでした。思えば、育児や家庭に縛られるのが嫌で結婚に踏み切れなかったような気がします。もちろん、仕事の上での男女差別はずっしり感じてきましたが・・・ 世の男性にこそ観てほしい映画です。(咲)
2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:クロックワークス
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/
★2020年10月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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