2020年09月30日

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ ( 原題 :The Last Black Man in San Francisco )

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監督・脚本:ジョー・タルボット
共同脚本:ロブ・リチャート
原案:ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ
音楽:エミール・モセリ
出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー

サンフランシスコ。祖父が建て、家族と暮らしていたことのある瀟洒(しょうしゃ)なヴィクトリアン様式の家に深い思い入れのあるジミー(ジミー・フェイルズ)は、観光名所となったその家を現在の家主が売りに出したことを知る。もう一度、そこに住むことをかなえようと駆けずり回る中、ジミーは家族や常に自分を支えてくれる親友モント(ジョナサン・メジャース)の存在のありがたみや大きさを噛み締めていく。やがて、財産を持たずとも守りたい大切なものが心の中にあるだけで人生は悪くないと思うようになる。

本作は、サンフランシスコの街、そこに建つ家、家具調度品、外壁の色、住む人々、友人、父、祖父らへの愛…、そして何より映画に対する愛、愛、愛…、万物への愛情に溢れた佳篇なのである。全編に横溢する好もしさは何処から来るのか?本名役で主演しているジミー・フェイルズと、これが初長編作となるジョー・タルボット 監督(脚本・原案も)は、サンフランシスコで生まれ育ったた幼なじみ同士。街を知り尽くした2人だけに、映し取る風景は第三者の観客の目から観ても優しく愛おしい。ただ、街への愛情が感傷やベタつきを伴わず、確かな技術に裏打ちされたものなのだ。
ハイスピードカメラ撮影による洗練された映像、スケボーが切り取って行くサンフランシスコ湾、ゴールデン・ゲート・ブリッジ、坂が続く街並み、路面電車、本作の鍵となるヴィクトリアン様式のレトロモダンな家。建物の意匠は逆光スモークのライティングで美しく照らし出される。プロダクション・デザイナーは舞台、CMの経験が豊富な女性だ。
品のいいオーケストレーションを含め、サンフランシスコに縁のあるジェファーソン・エアプレインやジョニ・ミッチェルなどの楽曲を使用した劇伴のセンスは抜群!音楽担当のエミール・モセリはこれが初の長編映画というから驚く。

舞台となるフィルモア地区は、戦前は日系人たちが住んでいたが、強制移住後は黒人たちが多く住むようになった。ジミーの祖父は、20世紀初め頃に建てられたヴィクトリアン・ハウスに住んだ”最初の黒人”という設定。IT長者や白人富裕層が占拠してしまい、黒人が追いやられている現代のサンフランシスコで、ジミーは”最後の黒人”となり得るのか?人種差別、格差といった単純な二分法では割り切れぬ現実が、ここにはある。(幸)


一つのスケボーに乗って、海辺の町を静かに行くジミーとモント。立ち止まって見上げるのは、かつて暮らしていた瀟洒な家。今は疎遠になってしまった家族との思い出が詰まった家だ。ある日、いつものようにこの家にたどり着いたら、荷物を運び出している。主が亡くなり、相続問題でもめているという。売りに出された家を買いたいと願うが、とても手が届かない。なんとかここに住みたいと願うジミーにモントはいつも寄り添っている。
風情あるサンフランシスコのベイエリアを舞台に、ジミーとモントの強い絆を描いた味わい深い映画。懐かしい「花のサンフランシスコ」の曲とともに、いつまでも余韻が残っている。
ちなみに撮影に使われたヴィクトリアン・ハウスのオーナーである元水化学者ジョン・テイラー氏(83歳)は、1889年に建てられた家を1960年後半に一目惚れし、数年後に友人と一緒に購入。友人の金策で一度売ってしまうも、1970年に、また家が売り出されていて買い戻したそうだ。同様の風情ある家が並ぶ地区だが、いつしか老朽化で建て替わってしまうのではないかと思うと、映像に残した意味は大きい。(咲)


主人公ジミーは祖父が建て、家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家に対する思いが強く、現在の居住者の留守を狙い、勝手にメンテナンスに勤しんでいます。あの家はジミーにとって幸せの象徴なのでしょうね。できれば買い取りたいと思っているけれど、彼には手が届かない。成功して、お金をためて買い戻す。そんなことさえ夢見ることさえできない格差が歴然と存在することを見せつけられます。
しかし、ジミーにとって象徴は呪縛でもありました。本当に大切なものに気づいたとき、新たな一歩を踏み出すことができたのです。こだわり過ぎて見えなくなっているものはないか。この作品をきっかけに振り返ってみてはいかがでしょうか。(堀)


2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/120 分/PG12
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/TC エンタテインメント
©2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://phantom-film.com/lastblackman-movie/
★2020年10月9日(金)より、 新宿シネマカリテ、シネクイント他にて全国公開



posted by yukie at 20:21| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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