監督:堤幸彦
原作:雫井脩介「望み」(角川文庫刊)
脚本:奥寺佐渡子
音楽:山内達哉
出演:堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶、加藤雅也、市毛良枝、松田翔太、竜雷太
一級建築士として活躍する石川一登(堤真一)は、誰もがうらやむような裕福な生活を送っていたが、高校生の息子が無断外泊したまま帰ってこなくなってしまう。その行方を捜すうちに、彼が同級生の殺人事件に関わっていたのではないかという疑いが浮上してくる。たとえ被害者であろうとも息子の無実を信じたい一登、犯人であっても生きていてほしいと願う妻の貴代美(石田ゆり子)。二人の思いが交錯する中、事態は思わぬ方向へと突き進んでいく。
息子は加害者なのか、被害者なのか?
「何れにしても、昨日までとは違う毎日が始まるのね…」
たとえ加害者側であっても生きていて欲しいと願う母。「お母さんには言えないけど」被害者であってと望む妹。父は息子の無実を信じたい。家族それぞれの”望み”が交錯する。
”何方に転んでも最悪な状態”ダブルバインドの中で、焦燥感と絶望に喘ぐ中、微かな望みを抱く家族の心理がヒリヒリと痛いほど伝わった。息もできない…映画とのフィジカルな共振が、観客に手渡されてゆく。
ところで、本作は法務省とタイアップしている。同省の標題には「再犯防止や少年の健全育成に関する取組み」といったタイアップ目的が並ぶ。そんな一般的用語が薄っぺらく感じられてしまうほど、ドラマは濃厚さと緊迫を孕みながら突き進む。
重い題材のせいか、数々のヒット作、話題作を生み出してきた堤監督にしては正攻法の演出だ。要所要所で句読点のように挟まれる夕映え、朝焼け、不穏な月などの空の景色が、まるで神の視座を得たかのように家族を見守る。そして”5番目の主役”ともいうべき「家」の存在が中心を成す。一級建築士である父が建てた理想の家。家族の写真が飾られ、幸せの象徴だった住処。誰もが居心地好く暮らせる筈だった父による設計が、皮肉にも家族に閉塞感を齎し、感情や軋みを増幅させる装置となってしまうのだ。
ラスト、家を映し出す長い空撮は、これからは何を望みとして生きて行くのか?そんな問いを突き付けるかのように家族を包み込んで行く…。(幸)
高校生の息子と連絡が取れない状況で高校生が殺された事件が起こる。現場から逃走したと思われる人物の影は2人。被害者は息子の友人と判明し、行方がつかめない仲間は息子を入れて3人。息子は現場から逃げた人影の1人なのか、まったく無関係なのか、それとも。。。
息子の無実をだけを信じる父親。犯人でもいいから生きていてほしいと願う母親。一流私立高校受験を控える妹。3人3様の葛藤が繰り広げられます。
息子が無関係でたまたま連絡が取れないとは考えられない状況下で息子の無実を信じるとは、息子も殺されているということ。「お前が犯人だと家族が困るんだ。死んでいてもいいから無実であってくれ」。親として、そんなことはとても口にはできません。しかし、一家の長として、妻と娘の幸せを守るためにはそれを願わざるを得ない。いえ、本心は家族のためではなく自分のためなのかもしれない。そんな心の奥に潜む気持ちまで表に引きずり出される主人公を見ていると、「で、あなたならどうする?」とこちらの内面まで問われている気がしてきます。
『決算!忠臣蔵』『一度死んでみた』とコミカルな作品が続いた堤真一が自分の弱さに直面する主人公を見事に体現しました。石田ゆり子、清原果耶もセリフの裏に隠された葛藤を表情や行動で表現しています。息子役は「MIU404」で新米の警部補・九重世人を演じたばかりの岡田健史。家族に言えない鬱積する思いを抱えた高校生を演じて、物語に切なさを加えていました。
重く辛いテーマですが、人として見ておきたい作品です。(堀)
2020年製作/108分/G/日本/カラー
配給:KADOKAWA
© 2020「望み」製作委員会
公式サイト:http: //nozomi-movie.jp
★2020年10月9日(金)より、全国公開
【関連する記事】