2020年09月25日
フェアウェル ( 英題:THE FAREWELL)
監督・脚本・製作:ルル・ワン
撮影:アンナ・フランケスカ・ソラーノ
美術:ヨン・オク・リー
編集:マイケル・テイラー、マット・フリードマン
衣装:アテナ・ワン
音楽:アレックス・ウェストン
出演:チョウ・シュウチン、オークワフィナ、エクス・マヨ、ルー・ホン、リン・ホン、水原碧衣
末期がんを患う祖母のため、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、従兄弟の結婚式を理由に中国に戻ってくる。ニューヨークで育ったビリー(オークワフィナ)は、祖母が残りの人生を悔いなく過ごせるように病状を本人に明かした方がいいと主張するが、両親を含めたほかの親族たちは、中国では助からない病気は本人に告げない伝統があると反対する。
全米わずか4館から口コミで評判が広がり、大ヒットしたのも納得の佳篇。これが2作目の中国系米国人ルル・ワン監督は、自身の体験を基にした下地であるにもかかわらず、感傷を排し、洗練された話法を展開。小気味好いテンポ・リズムは見事としか言いようのないウェルメイドなドラマに仕上げた。
主演のオークワフィナは、『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』でも個性的な味を発揮していたが、本作では終始素顔の美肌を晒し、飾らず活き活きと自然体な演技で観客の心を掴む。アジア系女優として初めてゴールデン・グローブ賞女優賞を受賞したのも嬉しい限りだ。
NYに住むビリー(オークワフィナ)は、中国の祖母が大好き。オークワフィナのハスキーで少し圧のある声と、電話口から聞こえる祖母の慈愛溢れる優しげな語り口の掛け合いが面白い。おばあちゃん子であるビリーの性格を知る家族は、”感情を隠せない”彼女に内緒で「ある計画」を企て、祖国へ帰郷する算段を立てる。
米国に移り住んでも、ビリーを含む親族は中国からの生活習慣を変えようとしない。それを熟知するワン監督は、親族が一同に会する円卓を巧みにカメラに収め、異国の文化摩擦(日本もちょっぴり出てくる)をコメディ調に綴る。米国で評価されたのも、こうした家族単位の生活習慣を細部のディテールを疎かにせず柔らかく描いた点だろう。結果として、本作は民族を超えた普遍的人間像を獲得することになった。
祖国へ一時帰国した家族は相変わらず円卓を囲む。円卓越しに祖母を上目遣いで見上げるビリーの表情が真に迫っているため、周囲は”秘密”がバレないかと気が気ではない。一方の祖母は元気そのもの。「ハァー!ハァー!」と声を出しながら歩く健康法をビリーに伝授するさまは、ビリーと祖母の呼吸が一体となったような深度に達した名場面だ。
自分探しを続けるビリーが祖母や親族と過ごす中で少しずつ開放されて行くくだりは、繊細な演出を得意とするワン監督の真骨頂だろう。
すったもんだの末に、最後は大きなカタルシスと爆笑のオチが待っている。観終わったら、ビリー世代はおばあちゃんに、祖母なら孫に会いたくなるに違いない心温まる映画だ。(幸)
誰しもがいつしか迎える死。それがいつになるかわからない。
お葬式には誰も呼ばなくていいと、常々妹にお願いしている。友人が駆けつけてくれたとしても、私自身がその人と久しぶりのおしゃべりを楽しむことができるわけじゃない。なので、この映画のように嘘でもいいから、人生の最期に親しかった人たちとのひと時を作るのは大賛成だ。
それにしても、オークワフィナの風貌は、西洋人が漫画に描く典型的な中国女性のよう! 実際にいるんだ~!と感嘆♪ (咲)
自分がもし末期ガンだったとしたら、今は告知をしてほしいと思うけれど、実際にその立場になったらどうなんだろう? この作品を見ていて、そのことがずっと頭の隅に引っかかっていた。作品では“余命ははっきりと伝えるべき”と考える西欧人、“最後まで知らせずに”と考える東洋人と分かりやすく大別され、NY育ちのビリーは中国人だけれど西欧人の発想とカテゴライズされていた。しかし、ビリーも祖母と接するうちに迷いが生じる。その辺りの心の機微をオークワフィナが繊細に演じていた。
オークワフィナを初めて見たのは『オーシャンズ8』だったが、あまり印象に残らず。続く『クレイジー・リッチ!』で個性的な顔立ちにほかのアジア系女優とは違うなと思い、『ジュマンジ ネクスト・レベル』の堂々とした姿に安心感を持った。そして、本作で彼女の演技力を改めて実感。今後の活躍に期待したい。(堀)
2019年製作/100分/G/アメリカ/カラー/5.1ch/シネマスコープ
配給:ショウゲート
(C) 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト: http://farewell-movie.com/
★2020年10月2日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
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