監督:行定勲
原作:水城せとな
脚本:堀泉杏
音楽:半野喜弘
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
優柔不断な性格から不倫ばかりしてきた大伴恭一(大倉忠義)の前に、ある日、妻から派遣された浮気調査員が現れる。その調査員は、卒業以来会っていなかった大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)だった。彼は、体と引き換えに不倫を隠すという取り引きを恭一に提案する。恭一は拒否するが、今ヶ瀬の真っすぐな気持ちに触れるうちに、二人の時間に少しずつ心地よさを感じるようになる。
今年はBL邦画の豊作といえるだろう。行定勲演出は、同性愛を主題とした既存の映画と異なり、彼らが立ち向かう社会との葛藤には関心がないようだ。ひたすら、人が人を愛すること、個人の内心を描こうとする話法に好感が持てた。
異性、同性を問わず、恋愛映画にはキャスティングが重要な要素を占める。慕う者と惚れられ役。演技巧者は断然、慕う側の成田凌だろう。猫のように靱やかな動き、弱みを握った交換条件に身体を求める強かさ、切ない気持ちの表現といった人物造形ぶりは鮮やかだ。
しかし、観ているうちに大倉忠義扮する先輩のほうが難役なのではないかと気付いた。主体性を持たず流されるままに相手を変えて行く。掴みようがなく何を考えているのか分からない男が、徐々に心身を曝け出す変容の過程は見ものだ。
ジャニーズでこれほどの濃厚な濡れ場を披露したのは初めてではないか。”らしくない”健闘に驚いた。
監督・演者とも覚悟が要ったことだろう。前半の流されていただけの大倉忠義が、後半のベッドシーンでは体位まで真逆になっているのだから…。
シンプルな家具が置かれた部屋に射す光線、一糸まとわぬ姿でリビングを歩く2人、スナック菓子を食べながらTVを見るシーンなど、何気ない日常を映し出すシネスコ映像が美しい。
近年の行定監督作では笑える場面が多く、軽快さが魅力となっている。
大倉忠義を巡る4人の女優の中では、さとうほなみが圧倒的な存在感を放つ好演を見せた。(幸)
括りとしてはBL作品になる。しかし、行定監督は本作で同性愛に留まらず、人を愛するが故の苦しみとその先にある希望を描こうとし、その思いに大倉忠義と成田凌が応えた。
素行調査をする探偵の今ヶ瀬と対象者の大伴。思わぬ再会をし、大伴の不倫をもみ消す代償にキスを求めた今ヶ瀬は舌を入れて大伴を驚かす。
誰かを好きになったことがある人はわかるだろう。最初は姿が見られるだけでいいと願い、それが叶うと声が聞きたくなる。相手と話がしたい、触れたい、そして。。。想いはどんどんその先を求めてしまう。相手との距離が縮まれば縮まるほど、願いが叶わないときの苦しみが強くなる。そんなジレンマを成田凌が見事に体現した。この役は成田凌以外に考えられないほどの適役に思えるが、脚本を読んだ成田凌は大伴でも今ケ瀨でもいいから参加したいと名乗り出たという。そんな話を聴くと成田凌の大伴が見たかった気がするが、贅沢は言うまい。
成田凌の完璧な今ヶ瀬は予想通りであるが、本作のもう一つの見どころは大伴の変化。学生時代の元カノに流れ侍と言われていたように流されるままに女性と付き合ってしまう大伴が本気で人を愛するとはどういうことかを知り、変わっていく。一歩間違えるとクズになってしまう役どころを大倉忠義が好感を持たせて演じた。
ラストは原作とは違うそうだが、今ではなく未来に幸せを予感させ、後味がすこぶるいい!(堀)
上の二人が言いつくしているので、私はファントム・フィルムの公式youtubeのお知らせを。「大倉忠義&成田凌スペシャル対談映像」(前編・後編)がアップされています。黒のスーツの大倉さん、白のスーツの成田さんが質問に10秒で答える即答テストが楽しいです。(白)
2020年製作/130分/R15+/日本/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch
配給:ファントム・フィルム
(C) 水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
公式サイト:http://www.phantom-film.com/kyuso/
★9月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
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