2020年08月30日
mid90s ミッドナインティーズ ( 原題 : mid90s )
監督・脚本:ジョナ・ヒル
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス
1990年代のロサンゼルスで、13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は母親のダブニー(キャサリン・ウォーターストン)と兄のイアン(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしていた。体格差のある兄にかなわないスティーヴィーは、大きくなったら見返そうと考えていた。そして街のスケートボードショップで知り合った少年たちの自由でかっこいい姿に憧れを抱く。
名カメラマン、ネストール・アルメンドロスの自伝を読んだ時、印象的なフレーズに出会った。
「髪の色と瞳の色にギャップがある人は、カメラ映りが良い」
つまり髪色が漆黒で瞳が青いイザベル・アジャーニやアラン・ドロン、金髪に濃茶の瞳のカトリーヌ・ドヌーヴなどはカメラ映りの良い俳優という訳だ。カメラマンらしい考察である。
この法則に当てはめると、本作の主役サニー・スリッチは確実に「カメラに愛される」。名優ジョナ・ヒル(『マネーボール』やジャド・アパトー監督作などの名演で観客を魅了!)が大切に温めてきた初監督作の主演にサニー・スリッチを選んだのも納得の好演ぶりだ。
ヨルゴス・ランティモス監督作『聖なる鹿殺し』を観た方なら、バリー・コーガン扮する厄災を齎すマーティンの犠牲になる少年役として記憶に残っているだろう。
あのイノセントなイメージそのままに、ジョナ・ヒル監督は’90年代ロサンゼルスのド真ん中に主人公スティーヴィーを置いた。自身の半自伝的な10代の想い出の体現をサニーに託したのだ。狙いは大成功!
本作のもう一つの主役ともいえるスケートボード。サニーは俳優兼プロスケーターでもある。1日の大半を仲間たちと過ごすスケートパーク。ジョナ・ヒル監督は、主人公の友人たちにも職業俳優ではなくプロスケーターをキャスティングした。
グランジな着こなしの少年たちが縦横無尽に滑る様を16mmフィルムのザラつく質感を活かし、時にはハイスピードカメラで、また今どき珍しい魚眼レンズを用い活写する。
流れる楽曲群は、もちろん当時のオルタナティブが中心。ニルヴァーナ、ピクシーズ…などなど、’90年代どストライクの世代には胸アツものに違いない。
当初、全米4館で公開した低予算映画が1200スクリーン超まで拡大したという。日本でも受け入れられること請け合いの快作だ。(幸)
兄の部屋にこっそり入り込み、洋服や帽子、スニーカーを触れて、兄になった気分をちょっと味わっていたスティーブがスケートボードで仲間を見出し、兄を追わずに成長していく。同性の兄弟姉妹がいる人には多かれ少なかれ経験のある話ではないだろうか。ショップに集うグループにするっと入り込んでしまう辺りは弟キャラならでは。夜な夜な1人で練習した上のことだが、長子にはなかなかできない芸当だ。
一方、ルーカス・ヘッジズが演じる兄イアンも登場場面は少ないが、印象に残る。自分なりに必死にクールであろうとしているが、真似るべき存在がいないため、形から入っていこうとしているのだろう。壁には帽子が、棚にはエアジョーダンがいくつも並ぶ。CDやカセットテープがきちんと整理され、雑誌が積み重ねられている。そういえば腕立て伏せでトレーニングもしていたはず。本人がいなくても、部屋の様子からイアンのストイックさが伝わってきた。仲間と呼べる友だちは少ないと思われる。だから、自分とタイプの違う弟にイラッとしてしまうのだろう。
ジョナ・ヒルにとって本作は初監督作品で脚本も書いているが、初めてとは思えない演出力に驚いた。90年代半ばの話だが、兄弟の関係性や成長過程は時代や性別に関係なく、多くの人が共感するに違いない。(堀)
兄に対抗意識を持ち、背伸びをしたがる13歳の少年スティーヴィー。わざと強がってはみるものの、まだ兄にはかなわないと悟っているのか、兄に挑戦はしない。斜めに見ている。そして、地元のスケボーショップにいるかっこいいお兄さんたちの様子伺い。仲間に入るのに、夜、自宅で一人でスケボーの特訓を。シングルマザーの家庭に育ったという設定だけど、スケボーの練習をするようなスペース?があるというのは、日本と違って余裕があるのか。道路や公園のような公共のスペースという感じではなく、自宅のガレージのそばという感じだったけど中流家庭なのか。そして少しスケボーに乗れるようになってから、スケボーショップにたむろするお兄さんたちに近づいていって仲間になってしまう。背伸びはしているけど、無謀といえるほど思い切りがいいことは確か。先に仲間になっていた同じ年代の少年を通り越して、お兄さんたちに認められていく。そんな少年の成長物語だったけど、この世代、時代、アメリカには似通った話がたくさんあるのだろう。『行き止まりの世界に生まれて』も、自分の家庭から離れて、自分の居場所を探す青年たちの話だった。今、アメリカでは黒人やマイノリティへの差別に対する運動が、1960年代のように再び盛り上がっているが、どちらの作品にも出てくるBOYSは、黒人に対する偏見がなく仲間としてつるんでいる。どちらの作品でも「ニガー」という言葉が出てくるが、これは差別用語で使うのではなく、親近感をもつ仲間うちで使われているということを知った(暁)。
2018年 / アメリカ / 英語 / 85分 / スタンダード / カラー / 5.1ch / PG12
提供:トランスフォーマー、Filmarks
配給:トランスフォーマー
(c)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/
★9月4日(金)より新宿ピカデリー、渋谷ホワイト シネクイント、グランドシネマサンシャイン他にて全国ロードショー
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