2020年08月23日

ようこそ映画音響の世界へ (原題:Making Waves)

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監督:ミッジ・コスティン 
出演:ウォルター・マーチ(『地獄の黙示録』)、ベン・バート(『スター・ウォーズ』)、ゲイリー・ライドストローム(『ジュラシック・パーク』)、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、アン・リー、ライアン・クーグラー、ソフィア・コッポラ、クリストファー・ノーラン、バーブラ・ストライサンド

1927年、それまで普通だった無声映画に代わって初めてのトーキー『ジャズ・シンガー』が誕生する。それ以来映画音響は日進月歩し、『キング・コング』『市民ケーン』『鳥』『ゴッドファーザー』などの作品が次々と封切られる。普段は裏方として現場を支える音響技術者たちが、これまで実際に目にしてきた撮影現場での数々の体験や創作活動について語る。

眼を閉じ、様々な映画の場面を思い出してほしい。ダースベイダーの息遣い、R2D2の”会話”、『地獄の黙示録』のヘリコプター音、『市民ケーン』では広大な屋敷に台詞が鳴り響く。デビット・リンチの不可思議な逆回転音声、『トップガン』のジェット機、キングコングの唸り声…。あなたの脳内に鳴り響いている豊かな音の洪水は、どのように作られてきたのか?本作を観ると映画の見方が変わってしまうかもしれない。それほど重要なドキュメンタリーが公開される。映画ファンには必見の価値ある傑作だ。

冒頭、人間が最初に持つ五感は音であることが説明される。私たちは母の胎内から音を頼りに外の意識世界へと旅立つ。映像より強いエモーショナルを喚起させ、錯覚も起こすことができる音響効果は素晴らしい仕事だと語る「職人」たちの言葉に引き込まれる。
ロバート・レッドフォード、アン・リー、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、ジョン・ラセター、ソフィア・コッポラ、デビッド・リンチ、バーブラ・ストライザンドなどなど、音に注力する監督たちが次々と登場し、自作の工夫点、音響効果担当者への信頼といった逸話が紹介されるに従い、映画は音で満たされていることを知るのだ。

取り上げられる作品は、主に米国映画が中心だが、仏ジャン・リュック・ゴダールの斬新な音作りに衝撃を受けた音響担当の言葉、アルフォンソ・キュアロン監督が『ROMA』で採用したパンニング(カメラの動きに合わせ、音も変化する)手法の話は慧眼だった。「なるほど!納得。そんな工夫が?!」と心中、叫び通しの本作はだれが観ても面白く興味を惹かれるに違いない。もちろん映画音楽の章では、ハンス・ジマーが登場。 言葉で百万言使っても伝わらない本作の魅力をぜひ映画館で体験してほしい!(幸)


映画は映像と音でできている。みんなが当たり前に思っていることに目を向けたのが本作である。もともと映画には音がなく、1927 年に初めてのトーキー映画『ジャズ・シンガー』が誕生し、映画音響は絶え間ない進歩を続けてきた。その歩みを丁寧に紐解いた本作は驚きの連続。作品を見終わったときに、『キング・コング』の声や『トップガン』のジェット機の音をどうやって作りだしたのかを、見ていない誰かに喋りたくなるに違いない。
そういえば、白石和彌監督にインタビューした際、音響効果の柴崎憲治さんを絶賛し、次のように語っていた。「柴崎さんの効果は本当に素晴らしい。僕は映画監督を辞めたら、効果マンになりたいと思っています。映画作りでも効果を入れる瞬間がいちばん気持ちいい。監督にとっての最大のご褒美の瞬間です。それに気づかせてくれたのが柴崎さん。一から出直すときは弟子になって、フォーリー・アーティストを目指したいと思っています」(「映画テレビ技術」2018年5月号より引用)
この話を聞いたときにはあまり共感できなかったのだが、本作を見て、白石和彌監督の言っていたことがやっと理解できた。
また9月25日公開の『映像研には手を出すな!』では音響がいかに場面を盛り上げるかを示すシーンがあるのだが、効果音だけ聞いていても場面をイメージできた。エンドロールにそのシーンの音響効果の担当として柴崎憲治氏の名前があった! 私たちの理解は音に頼っている部分が意外に大きいのだ。
映画音響の世界は本当に奥が深い!(堀)


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本作が初長編作となるミッジ・コスティン監督は、25年に渡って、ハリウッドで主に音響デザイナー、音響編集者として活躍してきた方。彼女がこの分野で仕事を始めた頃には、女性はほんの一握りだったという。そも、1980年代後半、大学院卒業後、映像編集の仕事を選び、さらに短編映画製作の資金調達のため、「ハードルを下げて」選んだのが音響編集。技術オタクの仕事と思っていたのが、次第に音で表現する魅力に取りつかれたという。2000年には一線を退き、映画芸術学校USCの教授として後身を育てている。ハリウッドの音の世界を長年支えてきた彼女だからこそ作れた映画だ。
私にとって興味をひいたのは、『アルゴ』のイラン革命時のデモの場面。ペルシア語話者のエキストラ100人以上の中には、当時を経験した者もいて、感情が根底に流れるものが撮れたという。もっともその多くが、現政権に背を向けて国外に出た人たちだと思うと皮肉だ。

「フォーリー・アーティスト」が映画に効果音を付ける“音の魔術師”のことだと知ったのは、2017年の東京国際映画祭で上映された、それこそ『フォーリー・アーティスト』(原題:擬音、ワン・ワンロー監督)という台湾映画を通じてのこと。台湾映画の音を支えてきたフー・ディンイーに焦点を当てた作品で、仕事部屋には様々なものが溢れかえっていて、こんなものでこの音が?と驚いた。
2016年の東京国際映画祭で上映された『キアロスタミとの76分15秒』(セイフォッラー・サマディアン監督)の中で、『5 five ~小津安二郎に捧げる~』の製作風景が出てきて、キアロスタミ監督が、アヒルの足音を米粒で出したり、羽ばたく様をジャケットをバタバタさせたり、とても楽しそうに音を作っていたのが印象的だった。キアロスタミが、映像と同じくらい、音に気を使ったことを知る場面だった。まさに、映画は映像と音で作るものなのだ。(咲)


提供:キングレコード  
配給:アンプラグド 
© 2019 Ain't Heard Nothin' Yet Corp.All Rights Reserved.
2019年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/94分/5.1ch
公式サイト:http://eigaonkyo.com
★8月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開★


posted by yukie at 12:12| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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