2020年08月07日
この世の果て、数多の終焉(原題:Les confins du monde)
監督・脚本:ギヨーム・ニクルー
出演:ギャスパー・ウリエル(ロベール・タッセン)、ギヨーム・グイ(カヴァニャ)、ジェラール・ドパルデュー(サントンジュ)、ラン=ケー・トラン(マイ)
1945年3月。フランス領インドシナに進駐していた日本軍がクーデターを起こし、それまで協力関係にあったフランス軍に一斉攻撃を仕掛けた。駐屯地での殺戮をただひとり生き延びたフランス人の兵士ロベールは、兄を殺害したベトナム解放軍の将校ヴォー・ビン・イェンへの復讐を誓い部隊に復帰する。ゲリラとの戦いは苛烈を極め、ヴォー・ビン・イェンの行方はつかめない。ロベールはベトナム人娼婦マイに惹かれるが、復讐に取り憑かれて後戻りはできない。やがて軍規に背く行為へと駆り立てられるように突き進んでいく。
フランス領インドシナ(1887-1954)は現在のベトナム、ラオス、カンボジアを合わせた地域。第2次世界大戦中日本軍も一時占領していました。ヨーロッパの大国がアジア、アフリカの国々を植民地としていた時期、あまりに国力が違いすぎて抵抗できなかったのでしょう。日本も大東亜共栄圏という構想をぶちあげたことがありました。アジアで共存共栄をという日本も、列強もどっちもどっちです。蹂躙された人々の嘆きも涙も届かない、というより同じ人間として見ていません。
インドシナにやってきたロベールやほかの兵士たちも、国の欲と都合に人生を狂わされてしまいました。映画は兵士たちの戦う場面ではなく、戦闘が過ぎて死体が散らばる凄惨な場面を映し出します。ロベールは兄が無残に殺されて、憎しみと復讐心をたぎらせますが自分の家族だからこそ。繊細なギャスパー・ウリエルが苦悩するのが痛々しいです。
どの兵士も住民も娼婦も、父と母から生まれた同じ人間なのに、そうは思わない訓練をして兵士は作られていきます。
壊れていくロベールに手を差し伸べる作家サントンジュは、名優ジェラール・ドパルデューが貫禄で演じています。サントンジュはフランス軍と独立を求めるインドシナの間にいる人間です。慧眼と包容力、父性を兼ね備えた彼だけが、ロベールの魂を救えたのに。
ベトナムのじっとりした暑さと死臭漂うような画面は観客を不安にします。不条理で不毛なのが戦争、とわかっても繰り返すのはなぜなのか。今に人間は地球から放り出されるのでは、というのは杞憂でしょうか?(白)
主人公のロベールが肩を落として座っている場面はポスタービジュアルにもあるが、シネスコの横長画面がロベールを押し潰しているかのように見える。バックに見える人々も歪められているのか、速度が緩慢でぼわんとした印象。ロベールは精神状態が普通でなく、次第に追い込まれていく。ベトナム帰還兵が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ話は映画に多いが、ロベールもPTSDだったに違いない。
ベトナム戦争はアメリカが起こしたものだとばかり思っていたが、始まりはフランスだったことをこの作品で知った。しかも日本がそこに絡んでいたとは! 歴史を知ってから見た方がより作品を理解できるだろう。
ところで、ジェラール・ドパルデューは14日公開の『ファヒム パリが見た奇跡』にも出演していて、今週はジェラール・ドパルデュー祭。フランスの国籍を捨て、ロシア国籍を得たとはいえ、演じている役はどちらも当然ながらフランス人。圧倒的な存在感を放っていた。(堀)
2018年/フランス/カラー/シネスコ/103分/R18+
配給:キノフィルムズ
(C)2017 Les films du Worso - Les Armateurs - Orange Studio - Scope Pictures - Rectangle Productions - Arena Films - Arches Films - Cinefeel 1 - Same Player - Pan Europeenne - Move Movie - Ce Qui Me Meut
https://www.konoyonohate.jp/
★2020年8月15日(土)ロードショー
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