2020年08月03日
ファヒム パリが見た奇跡 (原題:Fahim )
監督・脚本:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演·:アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、ミザヌル・ラハマン、イザベル・ナンティ
わずか8歳で母国バングラデシュを追われたファヒム。母親と引き離され、父親と二人でたどり着いたのはフランス・パリだった。亡命者として政治的保護を求めるも、言葉も文化も違う異国では なかなかうまくいかない。そんな時、故郷でチェスの天才と呼ばれていたファヒムは、フランス国内でも有数のトップコーチであるシルヴァンと出会う。国籍も年齢もかけ離れた師弟は、ぶつかり 合いながらも信頼関係を築いていく。しかし、一方でファヒム父子の亡命は認められず、強制送還の脅威にさらされることに・・・。解決策はただ一つ。ファヒムがフランス王者になることだった。
冒頭、深刻な政変混乱が続くバングラデシュ・ダッカで、身を危険に晒すファヒム一家の描写から、居住まいを正して観ることになる。キリリとした軍服を纏った父、豆粒のように小さいファヒム。”これは実話なのだ、現代でもこれ程の危機に瀕している国が、人がいる”と考えるだけで心が押し潰されそうになった。
父と二人でパリに辿り着くも安住の地ではなかった。移民局では、インド人を亡命者として優先したい通訳に”違訳”され、妨害を受ける。この場面はフィクションではなく実際にあることだという。国籍が異なる難民同士の諍いに胸が傷む。
母国でもチェスの天才と呼ばれていたファヒムの機転で、仏でも有数のトップコーチと出会い、才能を認められるも、父子の亡命申請は通らず強制送還の日は迫る。ファヒムを救え!コーチやチェス仲間の強い応援と協力を得て、ファヒムが王者目指してチェスに邁進するまでの経緯は、観客の誰しもがエールを送るだろう。そして最後には大きなカタルシスを得ることになる。
実際には、父子は仏の身分証を取得できたが、フランス国籍は未だに得られていないそうだ。そんな中でもファヒムはバカロレア(高校卒業試験)に合格し、商業学校に通っているという。聡明なファヒム、真面目一方の父をもってしても国籍の壁は高い。
監督・脚本のピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァルは、実話を「よくある“フェイクドキュメンタリー”のように手持ちカメラで質の悪い映像フレームで撮影したくなかった」と語る。その狙いは当った。チェスを格闘技の如く躍動的に映しつつ、画角にキチンと収まる品の良さは仏映画ならではだ。
映画の完成を待たずに亡くなったコーチと、扮するジェラール・ドパルデューが似ていることに驚いた。が、何より強い印象を残したのは、撮影3ヶ月前にバングラデシュから仏に移住したというファヒム役のアサド・アーメッドだ。ファヒムと同じく言葉を覚え、チェスを習い、初めての海に感動する…。職業子役では成し得ない”役を生きる”ことを体現している。更に父役の俳優も、路上生活を続け、パリの街角で花を売る日々。息子のように言葉を覚える術もない…。その焦燥、不安、アイデンティティの喪失を身体で表現する様に目が潤んだ。
日本にも存在する難民申請中の外国人たちに思いを馳せながら、ファヒム一家の幸せを願って止まない。(幸)
本作はバングラデシュを追われてフランスにたどり着いた父子の話。試写を見た直後は割とすんなりフランスに入国し、するするっとチェスのチャンピオンになってしまった印象を受けた。しかし、後からじわじわと作品の良さが心に響いてきた。本作が描きたかったのは、国外への逃亡の危険やチェスで勝つ大変さではなく、新しい環境に馴染んでいく息子に対する父親のうれしさと悲しさではないだろうか。フランス語が話せない父親にとってフランス語を話す息子は頼もしい存在だが、ナイフとフォークで食事をする息子を寂しそうに見つめる眼差しからバングラデシュの文化が消えていく悲しみが伝わってきた。モデルの父子はフランスの国籍はまだだが、身分証は獲得できたという。2人にとっての本当の幸せとはいったい何なんだろうか。いろいろと考えさせられる作品である。(堀)
★スタッフ日記に雑感を書きました。
『ファヒム パリが見た奇跡』に、難民認定の壁の高さを思う (咲)
2019年/フランス/シネマスコープ/カラー/デジタル/ 107分
後援:フランス大使館、アンスティチュ・フランセ、ユニフランス
提供:東京テアトル、東北新社
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
(C) POLO-EDDY BRIERE.
公式サイト:https://fahim-movie.com/
★8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開★
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