2020年07月28日

ジョーンの秘密 ( 原題:Red Joan)

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監督:トレバー・ナン
製作: デビッド・パーフィット
出演:ジュディ・デンチ、スティーヴン・キャンベル・ムーア、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ、ベン・マイルズ

夫亡き後、イギリス郊外で穏やかな余生を送っていたジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)は、2000年5月、突然家を訪ねてきたMI5のエージェントに逮捕される。50年以上も昔、ロシアのKGBに核開発の機密情報を流したスパイ容疑だという。無罪を主張するジョーンだったが、彼女の息子で弁護士として立ち会うニック(ベン・マイルズ)も知らない過去が次々と明かされていく。

英国とソ連、ナチスドイツの政治力学を背景としたスパイ映画は少なくない。が、そのスパイが80代の老女だとしたら?今から20年前の2000年、英諜報機関MI5が、KGBに核開発の機密を流していた“核時代最後のスパイ”を逮捕した実話を基にしている。
不起訴にはなったものの、英国民から” グラニースパイ”と呼ばれたジョーン・スタンリーを演じるのは、『007』シリーズの“M”でもあるJ・デンチ。典型的な住宅街で庭木の手入れをする老女が公務秘密法での逮捕を境に、映画はケンブリッジ大学時代のジョーンに戻る。

宿舎の窓から忍び込んできた酔いどれ女子学生ソニアと出会ったことから、ジョーンの数奇な運命が始まるのだ。物理を学ぶジョーンは、ソニアの従兄弟と称すレオの演説に夢中になる。川辺での逢瀬、ディケンズや政治の話、2人の秘密の場所!ケンブリッジ大学でロケしただけあって、若かりし頃の回想シーンは臨場感と躍動に満ちている。

場面は現在のジョーンに戻る。逮捕を聞きつけた弁護士の息子が駆けつけ、
「スパイだって?母さんが?!」
足枷を見せるジョーン。失望した顔の息子…。現在〜回想と時系を繰り返すことによって生じる緩急は、本作にリズミカルなテンポを編み出す。

政治と縁遠い場所にいた市井の娘が、スパイになるきっかけには意外にも日本が関与しているのだ。劇中、ジョーンをお茶汲みとして軽く見る場面が度々出てくる。個人的にはジョーンの持つ”母性”が主題の肝になっていると感じた。

若かりし頃のジョーン役ソフィー・クックソン(『キングスマン』)はデンチを凌ぐ熱演。恋人レオのトム・ヒューズ、息子役のベン・マイルズ、ジョーンにとって運命の人となるマックス・デイヴィス教授、スティーヴン・キャンベル・ムーア( 『ダウントンアビー』のチェトウッド少佐)ら、”世界一俳優の層が厚い国”英国の演者陣を堪能する映画でもある。
また、核開発という今日にも通ずる主題は十分な普遍性を持ち得るだろう。(幸)


ケンブリッジ大学で熱心に物理学を学ぶジョーンがなぜKGBのスパイになったのか。そのキーになるのが、若きジョーンが魅かれた2人の男性。まずは友人のいとことして紹介されるユダヤ系ロシア人レオ。トム・ヒューズが危険な香りを漂わせる。もう一人が大学を卒業したジョーンが働く研究機関で原爆開発を率いるマックス・デイヴィス教授。スティーヴン・キャンベル・ムーアが大人の落ち着きを醸し出す。しかし、恋愛が真面目な女性の運命を狂わせたわけではない。彼女には一途な信念があった。それは80歳になっても揺らぐことがない。
スパイものと聞くとバリバリのアクションものをイメージするかもしれないが、本作はそれとはだいぶ違う。科学の進歩と政治の危うい関係をきっぱりとはねつけたジョーンに賛否両論あるだろうが、議論のきっかけとして大きな意味を持っていると感じた。(堀)


2018年製作/101分/PG12/イギリス/5.1ch/カラー/シネマスコープ
配給:キノフィルムズ
(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018
公式サイト: https://www.red-joan.jp/
★8月7日(金)からTOHOシネマズ シャンテほかにて公開★
posted by yukie at 17:04| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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