2020年8月1日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
その他の劇場情報
監督・撮影:王兵(ワン・ビン)
製作:セルジュ・ラルー、カミーユ・ラエムレ、ルイーズ・プリンス、ワン・ビン
中国史の闇を生き延びた者たちの証言が死者の魂を呼び起こす
8時間26分の作品に挑戦してみませんか!
1950年代後半に起きた中国共産党の反右派闘争で粛清され、ゴビ砂漠の夾辺溝にある再教育収容所へ送られた人々。ぎりぎりの食料しか与えられず、過酷な労働を強いられ、劣悪な環境で多くの人が餓死した。生き抜いた人々が語る壮絶な体験と、収容所時代の墓地跡に散乱する人骨から、置き去られた死者たちの魂の叫び声が聞こえてくるような気がする。
「百家争鳴」キャンペーンを信じ自由に発言したら「右派」と呼ばれ、55万人もの人々が収容所に送られたと言われている。王兵監督は『鳳鳴フォンミン― 中国の記憶』(2007)、『無言歌』(2010)でも反右派闘争を追い続け、いまだに明らかにされていない中国史の闇を追求している。
大飢饉が重なり収容所は地獄になった。生還率10%ともいわれた収容所を生き延びた人たち。その後、開拓地として頒けられたその地で暮らす農民たち。
2005年から2017年までに撮影された120人の証言、600時間に及ぶ映像から本作はまとめられた。8時間以上に渡る作品だが、収容所の背景や状況を提示する第一部。衝撃的な収容所の飢餓状況の第二部。収容所の係員だった人の証言もある第三部と分かれている。
厳しい体験をした人たちの言葉はずしりと重く苦しい。多くの亡くなった人たちの状況、棺桶がなくなった後は布団に丸めて遺体を放置した話などは涙が出た。壮絶な話の数々に気が引きしまる思いで観た(暁)。
2010年に製作された『無言歌』は、ヤン・シエンホイ(楊顕恵)の小説「告別夾辺溝」を元に、ワン・ビン監督が再教育収容所を生き延びた人たちを探し当て、3年にわたりインタビューを重ねて脚本を作り上げたフィクションだった。毛沢東の「大躍進」政策によりもたらされた大飢饉で、収容所はさらに凄惨な状況だったことが静かに伝わってくる作品で、忘れられない。
1966年から10年間にわたる文革よりも前に、1950年代後半に反右派闘争で粛清された人たちがいたことを知ったのは、謝晋監督の『天雲山物語』(1980年)を通じてのことだった。
文革同様、知識人が粛清の対象になったのかと、なんとなく想像していたが、今回、『死霊魂』で体験者の証言を聞き、右派の烙印を押されたのが、実に理不尽な事情だったことを痛感した。特に本人にとって納得がいかないのが員数合わせだろう。例えば、その地区として、右派を5人出せと言われた上層部は、ちょっとした理由を見つけて烙印を押すという次第。多くの人たちが、食べるものもいきわたらない収容所で命を落としたことを思うと涙が出る。そして、この中国共産党の何かと理由をつけて、異分子を再教育収容所に入れることは、いまだに続いている。(咲)
公式HP
フランス・スイス/2018年/8時間26分(3部合計)/DCP/カラー
日本語字幕:最上麻衣子(第一部)、新田理恵(第二部、第三部)
配給:ムヴィオラ
参考記事
シネマジャーナルHP
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 レポート 大賞は『死霊魂』に
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/470947183.html
2020年07月26日
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