2020年07月22日
17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン(原題:Der Trafikant)
監督:ニコラウス・ライトナー
原作:ローベルト・ゼーターラー「キオスク」(東宣出版/酒寄進一 訳)
脚本:クラウス・リヒター ニコラウス・ライトナー
音楽:マシアス・ウェバー
出演:ジーモン・モルツェ(フランツ・フーヘル)、ブルーノ・ガンツ(ジークムント・フロイト)、ヨハネス・クリシュ(オットー)、エマ・ドログノヴァ(アネシュカ)
1937年 ナチス・ドイツが台頭してきたオーストリア。フランツはアッター湖のほとりで母親と暮らしてきた。17歳になっても仕事のない彼を心配した母親は、ウィーンに住む古い知り合いを頼るよう送り出す。元軍人のオットーが営むタバコ店(キオスク)で、住み込みの見習いとして働くことになっていた。仕事を覚える日々の中、常連のひとり“頭の医者”として知られるフロイト教授と話すようになった。田舎から来たばかりの純朴なフランツに、教授は「人生を楽しみ恋をするよう」勧める。その言葉に従って町に出たフランツは謎めいた年上のアネシュカに一目惚れしてしまう。初めての恋に戸惑うフランツに、教授はいくつか助言を与える。しかしドイツとオーストリアの併合準備が進み、小さなキオスクも激動の波に巻き込まれていく。
ドイツとオーストリアの併合は翌年3月のこと。じわじわとナチ色が浸透してきて、反対するもの、賛成するものに分かれてのいざこざやナチの弾圧も背景に見せています。そんな不穏な時代に生まれ合わせてしまったフランツの、甘くほろ苦い恋と成長の物語に、実在の人物であるフロイト教授が登場します。教授じきじきのお悩み相談とはなんと贅沢でしょう!教授の指南でフランツが書き残す夢のシーンも幻想的で素敵。
ブルーノ・ガンツは『ヒトラー 最期の12日間』(2004)でヒトラー役でした。本作では迫害を受けるユダヤ人、亡命するフロイト教授役です。その物腰もまなざしも思慮深く若者を思う優しさがにじみ出ていて、さすがです。2019年に亡くなってしまい残念ですが、この遺作は観客の心に刻まれるはず。
フランツ役のジーモン・モルツェ、ボヘミア少女のエマ・ドログノヴァはお初ですが、次の作品を期待してしまう若手。オットー役のヨハネス・クリシュはじめ、脇の方々もあの時代を背景に生きている存在感あり、オーストリア、ドイツで作られて良かったと思いました。原作者のローベルト・ゼーターラーは作家、脚本家、俳優といくつもの顔があるそうですが、エンドロールを観ていたらキャストの中にお名前があったんです。いったいどの役だったのでしょう?(白)
母親のパトロンが湖で事故死して、ウィーンのタバコ屋で働くことになったフランツ。毎日のように母親に宛てて絵葉書を書く孝行息子です。常連客の「頭の中身を治してくれる」フロイト教授。「本を読んで勉強する」というフランツに、「女の子と親しくなって好きなことをしろ」と処方します。ユダヤ人のフロイト教授とカフェに入ったときに、奥の見えない席に案内され、ひしひしとナチの力がウィーンに浸透しているのを感じます。
タバコ屋の店主オットー(ヨハネス・クリシュ)もまた、フランツを導いてくれる人物。「タバコ屋は味わいと快楽を売る店。秘密厳守」と、こっそりエロ本を売る一方、ナチ党の新聞は決して扱わない。アカもユダヤ人も大事なお客、「心の自由なくして民族の自由なし」とドアに掲げる気骨のある人物です。それ故、「ユダヤ人御用達」と烙印を押され、ついに秘密警察に連れ去られます。戦争で片足を失ったオットーの必需品である松葉杖が店に残されていて、フランツが届けに行く姿にほろりとさせられます。
ナチ・ドイツのオーストリア併合という激動の時代に、17歳のフランツがフロイトや店主との出会いによって大人へと成長していく、瑞々しい物語。
原題『Der Trafikant』は、「タバコ屋」ですが、邦題の『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』、なかなか素敵です。(咲)
2018年/オーストリア、ドイツ合作/カラー/113分/R15
配給:キノフィルムズ
© 2018 epo-film, Glory Film
http://17wien.jp/
★2020年7月24日(金・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください