2020年07月08日
ブリット=マリーの幸せなひとりだち ( 原題:Britt-Marie var her)
監督:ツヴァ・ノヴォトニー
原作:フレドリック・バックマン
出演:ペルニラ・アウグスト、ランスロット・ヌベ、ヴェラ・ヴィタリ、ペーター・ハーバー、オッレ・サッリ、アンデシュ・モッスリング
スウェーデンに住む専業主婦ブリット=マリー(ペルニラ・アウグスト)は、40年にわたって夫を支えてきた。ある日、出張先で夫が倒れたという知らせを受けて病院に駆けつけると、長年の愛人が付き添っていた。家を出たブリット=マリーは、これまでほとんど働いたことがなかったが、小さな町でユースセンターの管理人兼子供たちのサッカーチームのコーチの仕事に就く。
2016年に公開されたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』に魅了された映画ファンは多いだろう。同じ原作者による小説「ブリット=マリーはここにいた」(原題)の映画化である本作は、”おじいさん”を主役とした前作の女性版…ではない。ノスタルジックな場面に多く割かれていた前作と違い、63歳・専業主婦40年の主人公は未来に向かって歩み出す。強い意思を示した原題は、本作の内容を巧みに表現している。
税金の高いスウェーデンでは滅多に成立することがないという”専業主婦”。ブリット=マリーの40年間変わらないルーティンを示す冒頭場面の描写が圧倒的に面白い!朝6時に起床、朝食後に夫を送り出す。整然と並べられたカトラリー。「物は在ったところに仕舞うものよ。家は誰が見ても美しいものでなければ」と哲学を独白しながら家事をこなすブリット=マリーの動きには無駄がない。
夕食はきっかり6時、夫もそれに合わせて帰宅するが、彼が何より優先するのはサッカー。人生の一部といより”全て”なのだ。こうした極めてルーティン化した生活が、「誰かが家具を動かしたら何かが出てきちゃった」ように劇的な変化を迎える事態が起こる。
そんな時も、家事をこなす調子と同様に顔色一つ変えず、決然とした行動に出るブリット=マリー。観客は一気に主人公へ肩入れをしたくなる。ここまで約10分程の淡々とした流れを作り出す女優出身監督ツヴァ・ノヴォトニーの演出は抜群だ。冒頭の丁寧な描写を漏らさず観ていた観客は、中盤以降ブリット=マリーに押し寄せる怒涛の人生に俄然興味を引かれるに違いない。
主演のペルニラ・アウグストは、『愛の風景』や『スター・ウォーズ』のスカイウォーカー母で知られるスウェーデンの国民的女優。男優は英国、女優はスウェーデンに限る!という私見を持つ身としては、アウグストの非の打ち所がない名演を堪能できたことが幸せだった。
シンプルな北欧家具、街並みの整然さが、一気に混沌へと変わる様も興味深い秀作である。(幸)
(幸)さんがブリット=マリーが家を出るまでにスポットをあてているので、私はその先を。
ブリット=マリーはずっと専業主婦をしてきたので、家を出ると収入がありません。しかも63歳。しかし、夫の自宅での楽しみがサッカー観戦だったことをブリット=マリー「人生の大半をサッカーに費やした」と表現したのを職安の職員が勘違いをしてくれて、都会から離れた小さな村のユースセンターの管理人兼弱小サッカーチームのコーチになれました。苦痛だった夫のサッカー好きに助けられる。人生どこで何が幸いするかわかりません。
サッカーは素人ですが、持ち前の家事能力で荒れ放題だったユースセンターをきれいに片付け、子どもたちや村の人と馴染んでいきます。そこにちょっとしたラブロマンスも生まれ、ブリット=マリーは表情が和らぎ、きれいになっていきます。その辺りの微妙な変化をペルニラ・アウグストは繊細に表現しました。(幸)さんが「女優はスウェーデンに限る」というのも納得です。
そこに心を入れ直した夫が登場。帰ってきてほしいと訴えます。しかもユースセンターの取り壊しが決まり、サッカーチームも解散の危機に追い込まれます。果たしてブリット=マリーはどんな選択をするでしょうか。
本作はいくつになっても自分のために生きることができると背中を押してくれます。(堀)
ブリット=マリーにとっては、家事をきっちりこなすことこそ主婦の務めと信じて暮らしてきたのですが、この隙のなさと愛想のなさに、夫が愛人に心のよりどころを求めてしまったのも仕方ないなぁ~と、ちょっと同情してしまいます。
それはさておき、予告編を観た時に、明らかに肌の色の違う子どもたちが出ているのに興味を惹かれ、映画を観てみました。
仕事を紹介されて、たどり着いた小さな村ボリ。まず立ち寄ったお店の主が中東風。ユースセンターのサッカーチームの子どもたちの多くもアフリカや中東風の顔立ち。スウェーデンでは、2017年の時点で、総人口の17%が移民。スウェーデン生まれの2世なども加えると、人口の4分の1がスウェーデン以外にルーツがあるそうです。『幸せなひとりぼっち』でも、隣人にイラン人の女性が出てきました。本作でも、いろんなルーツの人たちが、共に暮らしている姿になごまされました。税金の高いスウェーデンですが、その税金で収入の少ない移民の人たちも恩恵を受けているのがみてとれて、嬉しくもありました。(咲)
2018年製作/97分/G/スウェーデン
配給:松竹
(C)AB Svensk Filmindustri, All rights reserved
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/bm/
★7月17日(金)より新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開★
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