2020年07月08日

リトル・ジョー ( 原題:Little Joe)

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監督:ジェシカ・ハウスナー(『ルルドの泉で』)
音楽:伊藤貞司
出演:エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー

シングルマザーの研究者アリス(エミリー・ビーチャム)は、幸せになる香りのする新種の植物リトル・ジョーを開発するが、仕事にのめり込むあまり息子のジョーと向き合っていないことに後ろめたさを感じていた。ある日アリスは、リトル・ジョーを植えた鉢を持ち帰り息子にプレゼントする。しかし、花の香りをかいだジョーや、花粉を吸い込んだアリスの助手クリス(ベン・ウィショー)の様子が徐々におかしくなる。

冒頭から響き渡る尺八、箏、笙の音。真上から撮影される化学プラント。植物が居並ぶ無機的な空間。音響、カラフルな絵造りが映画に新鮮な調和を齎らす。"感染"が主題でもある本作は、今まさに鑑賞すべき作品と言える。母性ホルモンを誘発し、放つ香りは人々を幸せにする植物=リトルジョー。「幸せにする」プラントの意匠に温かみがなく、白ベースに青、赤の植物が整然と植えられたデザインはクールな印象である。日本人作曲家、故・伊藤貞司による楽曲は、寧ろ“怪談”を想起させ、時にケチャのようにも聴こえ、不穏な空気を醸し出す。

『ルルドの泉で』で宗教的奇跡と残酷さを演出したオーストリアの女性監督ジェシカ・ハウスナーが初のSFに挑んだ。種子を遺伝子を残せない、生殖させない改良を人工的にほどこした植物。花粉を吸った時に生じる反動を冷徹な話法で描き出す。

家族、同僚、知人、被験者といった集合体で登場する人物に扮する俳優たちは、いたって普通のドラマのように演じているため、事象の異様さが際立つ。エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、子役のキット・コナーなど英国の演技巧者を集めた中、最も印象深い人物造形を残したのは、ジェーン・カンピオン作『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(90)の主演が未だ忘れ難いケリー・フォックスだ。扮する同僚ベラの存在を契機として起こる事件がラストへと繋がる伏線となっており、本作に於ける重要なキーパーソンだろう。
”感染”と立ち向かう現在、多くの示唆を孕んだ問題作だ。(幸)


子どもを産むと女性は誰でも自分の子どもを最優先すると思われています。でも、中にはそれまで築いてきた仕事のキャリアの方が大事だと思ってしまう人もいるでしょう。ただ、それを表に出すと人間失格の烙印を押されてしまう気がして、隠しているのではないでしょうか。

この作品の主人公アリスもその1人、本心は研究に専念したい。正直、息子は研究の足枷。でも息子を見捨てられない。この葛藤を表に出さずに苛まれるアリスをエミリー・ビーチャムが好演。

母親らしさ、女性らしさにとらわれ過ぎず、生きたいように生きることも決して恥ずかしい選択ではないことを作品は伝えてくれます。(堀)


2019/オーストリア・イギリス・ドイツ/105分/カラー/ビスタ/5.1ch/英語
配給:ツイン
(c)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
公式サイト: http://littlejoe.jp
★7月17日(金) アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺他にて全国順次ロードショー★
posted by yukie at 22:58| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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