2020年06月21日
カセットテープ・ダイアリーズ 原題:Blinded by the Light
監督:グリンダ・チャーダ(『ベッカムに恋して』)
脚本:サルフラズ・マンズール、グリンダ・チャーダ、ポール・マエダ・バージェス
原作:サルフラズ・マンズール「Greetings from Bury Park: Race, Religion and Rock N’Roll」
出演:ヴィヴェイク・カルラ、クルヴィンダー・ギール、ミーラ・ガナトラ、ネル・ウィリアムズ、アーロン・ファグラ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ロブ・ブライドン、ヘイリー・アトウェル、デヴィッド・ヘイマン
1987年9月、イギリスのルートン。16歳のパキスタン系の少年ジャベドは高校に入学する。幼なじみの少年マットは恋人ができて忙しい。一人寂しくジャベドがウォークマンで流行のペット・ショップ・ボーイズを聴きながら歩いていると、すれ違いざまにインドにルーツを持つシーク教徒のルーブスからカセットテープを渡される。それは熱烈なファンたちから「ボス」と呼ばれ親しまれているアメリカのブルース・スプリングスティーンの歌。ジャベドは一気に惹きこまれる・・・
イギリスの小さな町で、人種差別や、故国の習慣を守ろうとする父親との確執など、ジャベドの悩みは尽きません。それを吹き飛ばしてくれたのが、スプリングスティーンの音楽でした。人生の価値を見出すほどの衝撃だったのです。カセットをくれたルーブスと親しくするようなったジャベドは、その後、スプリングスティーンの生の歌を聴きにアメリカにも一緒に行くほど意気投合。宗教は違うけど同じインド亜大陸の出身の二人の友情にほろりとさせられます。
原作はパキスタン出身で、イギリスでジャーナリストとして活躍するサルフラズ・マンズールの自伝的な回顧録。監督のグリンダ・チャーダも、スプリングスティーンの大ファンで、サルフラズと一緒に行ったイベントでスプリングスティーン本人に会ったことから、この映画は誕生しました。スプリングスティーン自身が多くの楽曲を本作に提供しています。さらに、アカデミー賞受賞のインドの音楽家A.R.ラフマーンが、オーケストラ編成の曲で映画に彩を添えています。
グリンダ・チャーダ(写真中央)は、1960年ケニヤ・ナイロビ生まれのインド系。ロンドン育ち。BBCでジャーナリストとしてキャリアをスタートさせ、1989年から監督業に転身。英国映画史の中で、現役の最も多作な女性監督の一人となりました。2006年に大英帝国勲章を叙勲。『ベッカムに恋して』(02)『英国総督 最後の家』(17)等、自身のルーツにゆかりのある作品も数多く手がけています。
また、本作で描かれている80年代の国民戦線などの人種差別主義者の台頭もグリンダ・チャーダ自身が経験したもの。ジャベドの姉の結婚式が行われる日、結婚式場に向かう一行が、頭を剃り上げ、タトゥーで全身を覆った国民戦線の支持者たちのデモ隊に阻まれる場面は圧巻です。街の壁にあふれる人種差別的な国民戦線のスローガンは、実際に当時を経験したグリンダ・チャーダ監督と、父親役のクルヴィンダー・ギールが自ら落書きしたものだとか。
こうした移民排斥や人種差別は、残念ながら今も世界の各地で見られます。この映画で描かれていることは決して過去のことではありません。
そして、出会った音楽が人生を変えてくれるという魔法も、いつの時代にもあることですね。(咲)
2019年/イギリス/117分/カラー/英語/シネマスコープ/5.1ch/G
日本語字幕:風間綾平/字幕監修:五十嵐 正
配給:ポニーキャニオン
© BIF Bruce Limited 2019
公式サイト:http://cassette-diary.jp/
★2020年7月3日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
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