2020年06月14日
今宵、212号室で 原題:Chambre 212/英題:On A Magical Night
監督・脚本:クリストフ・オノレ
出演:キアラ・マストロヤンニ ヴァンサン・ラコスト
カミーユ・コッタン バンジャマン・ビオレ キャロル・ブーケ
第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門最優秀演技賞(キアラ・マストロヤンニ)受賞
恋がいっぱい。でも、愛は一つだけ。
マリアは、結婚して20年になる夫リシャールと二人暮らし。今ではすっかり“家族”になってしまった夫には内緒で、密かに浮気を重ねていたが、ある日ついにバレてしまう。怒ったリシャールと距離を置くため、マリアは一晩だけアパルトマンの真向かいにあるホテルの212号室へ。窓越しに夫の様子を眺めるマリアのもとに20年前の姿をした夫が現れ、さらには元カレたちも次々と登場、そのうえ夫の初恋相手のピアノ教師までもがかつての姿でやってきて、愛の魔法にかかった不思議な一夜が幕を開けた! もしもあの時、あの恋が成就していたら?かつての恋の思い出が脳内を走馬灯のように駆けぬけたあと、マリアが見つけた真実とは?
冒頭、アポリネール自身が朗読する「ミラボー橋」が流れた時から気分はもうパリ!颯爽とパリの街を歩くキアラ・マストロヤンニの魅力に酔いしれ、物語の独創性とウィットに富む上品なユーモア、センスのいい挿入歌(シャルル・アズナブールなど)の数々にウットリする87分である。
とはいえ、そこは仏映画。お気楽モードなロマコメでは終わらない。夫婦、男女の愛における本質、普遍性に鋭く迫る批評精神が断片のように忍ばせてある。タイトルの【212】には仏ならではの意味が込められているのだ。
性に放縦なヒロインを語り部に配し、片や浮気知らずの夫をサブパーソンに。口論から夫婦が暮らす部屋の向かいのホテルへ逃げ出した妻は、通常とは別の窓に広がる世界を初めてのぞく。目に入るのは怒り荒れる夫…。
と同時に25歳の若き夫が現れる!観客はファンタジックな夜に誘われる。「元カレ」大集合の場面は爆笑だ。
トリッキーな展開に呼応すべく、映像のカラリングや編集、ライティングまで魔法粉をまぶしたかのような幻想性を帯びて行く。巧みな絵造りと軽妙洒脱なタッチは仏映画ならでは。
キアラ・マストロヤンニの無邪気で憎めない表情は、ラテンラヴァーの父マルチェロ・マストロヤンニに生き写し。細長い手足は母カトリーヌ・ドヌーヴ譲りだ。
夫役のバンジャマン・ビオレは本業ミュージシャン。2人は実生活の”元夫婦”である。
若き日の夫を演じるバンサン・ラコスト(『アマンダと僕』など)はミュージシャンであり、医師免許も持つ才人。特別出演で仏を代表する美人女優キャロル・ブーケも顔を見せる。
魅力的なキャストを揃え、仏映画が苦手な方にも抵抗なく受け容れられる佳篇だろう。(幸)
2019年/フランス・ルクセンブルク・ベルギー/フランス語/87分/1:1.85/
配給:ビターズ・エンド
©Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema
公式サイト:http:www.bitters.co.jp/koyoi212
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