2020年02月25日

シェイクスピアの庭 英題:ALL IS TRUE

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監督・製作:ケネス・ブラナー
脚本:べン・エルトン
製作:テッド・ガリアーノ、タマール・トマス
撮影:ザック・ニコルソン
美術:ジェームズ・メリフィールド
衣装:マイケル・オコナー
出演:ケネス・ブラナー 、ジュディ・デンチ、キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン、イアン・マッケラン

1613年6月29日、「ヘンリー八世」上演中の火災でグローブ座が焼失し、気力をなくしたシェイクスピア(ケネス・ブラナー)は、断筆して故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンに戻る。8歳年上の妻アン(ジュディ・デンチ)、独身の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)らは、20年以上もロンドンで仕事漬けだったあるじの突然の帰郷に困惑していた。

文豪シェイクスピアはなぜ49歳で断筆したのか?なぜ20数年ぶりに故郷ストラットフォード・アポン・エイボンへ戻ったのか?…読者には不可解だったシェイクスピアの謎が、監督・主演を務めたケネス・ブラナーなりの解釈で示される。本作はブラナーというフィルターを通して観る人間シェイクスピア像なのだ。

対象を最後の3年間に絞って描いたことが奏功し、最晩年からシェイクスピアの人生そのものが照射されて行く分かりやすい構成となっている。
そのせいか、場面の多くは「黄昏時」。西から射す陽光は庭の草花を優しく照らし出す。イキイキと咲き誇る生の象徴である草花と、人生の黄昏時を迎えたシェイクスピア。柔らかな光が対照性を際立たせる撮影効果は巧みだ。

また、屋内の光源は蝋燭だけという奥行きの深い自然光映像にも心惹かれた。仄暗い灯から照らされる登場人物のきめ細かな表情、ロケに使用された15世紀来の邸宅の隅々や家具調度品、衣装の質感といった細部のディテールまでが優しく映り込み、17世紀の人々の暮らしぶりが手に取るようなリアルさで伝わってきた。映像美にもご注目願いたい。

シェイクスピアは植物への造詣が深かったという。そういえば、戯曲やソネットにも草花の引用、比喩表現が多く見られる。題名の”庭”は、11歳で夭逝した愛息を悼むつもりでシェイクスピアが庭造りを始めた逸話から採ったもの。上手い邦題だ。
英国式庭園は自然の隆形を活かし、草花や樹木を植える。自然を慈しむことで黄泉の国にいる愛息と通じようとしていたのではないだろうか。

原題は「All is true」。ブラナーが捉えたシェイクスピア像がブラナーにとっての”真実”なら、「貴方は客人。客人には最上のベッドを」と夫婦の寝室を拒む妻から見たシェイクスピアも”真実”。シェイクスピアからの思慕を受け入れないサウサンプトン伯爵の眼に映る芸術家もまた”真実”...。多面的な全ての”真実”が本作には宿っていることを気付かせてくれる映画だ。(幸)


配給:ハーク
シネマスコープ/2018年製作/101分/G/イギリス
(C) 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.
公式サイト:http://hark3.com/allistrue/
★3月6日(金)から、Bunkamura ル・シネマほか全国で順次公開★
posted by yukie at 12:34| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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