2020年02月23日

レ・ミゼラブル(原題:Les miserables)

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監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ、ジョルダーノ・ジェデルリーニ アレクシス・マネンティ
撮影:ジュリアン・プパール
音楽:ピンク・ノイズ
出演:ダミアン・ボナール(ステファン)、アレクシス・マネンティ(クリス)、ジェブリル・ゾンガ(グワダ)、イッサ・ペリカ()、ジャンヌ・バリバール(警察署長)

パリ郊外のモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。親も手を焼くやんちゃな少年イッサが、ちょっとした悪戯心から事件をおこしてしまった。些細な出来事をきっかけに対立するグループを巻き込み、野火が広がるように大騒動となってしまった。事件解決へステファンたちも奮闘するのだが。

新鋭ラジ・リ監督は映画の舞台となったこのモンフェルメイユ出身で、現在も住んでいます。「本作で描かれているすべてが実際に起きたことに基づいています」とのことです。そうなのか。しかし、事件の大小を問わなければ日本で起きていてもおかしくありません。それほど世界中どこも、誰もが分断されて、憎しみの火種を抱えているのではと危惧してしまいます。
全く環境の違うところから転任してきたステファンは、権力をかさにいばりちらすクリスに閉口します。役職と自分の力を混同してしまっている危険人物です。警察の上司(女性の署長)になんとかしてほしいです。若いグワダもクリスに従っていますが、家で迎える母は、先ほど横柄に対応した住民と同じ民族衣装姿でした。
登場人物の外と内の顔を見せながら進んでいくストーリーは、徐々に緊迫していき、暗いエネルギーが爆発するラストは、息をするのも忘れるほどでした。殺傷能力がないからとゴム弾が威嚇に使われていましたが、ひどいです。自分が撃たれてみろってんだ、と思わず文句。ああ胸が痛かった…。
2019年の第72回カンヌ国際映画祭ではポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』とともにパルムドールを競い、審査員賞を受賞。前者のようなひねりなしの直球映画ですが、アカデミー賞ではこちらに一つ分けてほしかったなぁ。(白)


少年の軽はずみな行為が対立する大人の派閥や警察まで巻き込み一大事になってしまう。もしかすると少年にしてみたら、自分は被害者なのかもしれない。直接的には関係のない大人たちの解決を当事者の少年はどう捉えたのか。安直に丸く収めるのではなく、見る者の不安を掻き立てる。衝撃的なラストこそリアルな現実。このままじゃいけない。大人は子供に何を見せたらいいのだろうか。(堀)

少年イッサが街に来ていたサーカスからライオンの子を連れだしたことからギャングどうしの間でひと悶着。衝突を避けようと警察が介入した時に、誤ってイッサに発砲したのをドローンで撮影されていたことがわかり、警察は動画の流出を止めようと躍起になります。
ライオンの子を連れだしたのがイッサだと判明したのもSNSに投稿された写真。SNSにドローンといったツールが問題を起こしていくのも、今の社会を映し出しています。
「イスラームではライオンは強さの象徴。檻に入れてはいけない」と、モスクでイマームが発言をした場面があって、民族や宗教で考え方の違いがあることを感じさせてくれます。
冒頭、様々な顔の人たちが、フランス国旗を背負って、国歌ラ・マルセイエーズを歌いながら歓喜する姿が映し出されます。サッカーワールドカップ優勝の折の場面。移民や移民2世3世も、フランス人として一体感が持てる唯一の場面を最初に掲げたことに、ほかの時にもフランス人としてみてほしいという監督の思いを見て取りました。
黒人のベテラン警官グワダ、人種差別主義者の白人警官クリス、郊外を初めて担当するステファン、そして女性の警察署長。それぞれを体現した役者たちが素晴らしく、見応えのある作品。(咲)

2019年/フランス/カラー/シネスコ/104分
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
http://lesmiserables-movie.com/
★2020年2月28日(金)ロードショー




posted by shiraishi at 15:23| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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