2020年02月17日

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像 英題:ONE LAST DEAL

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監督:クラウス・ハロ
脚本:アナ・ヘイナマー
劇中絵画「キリスト」制作:イゴール・イェヒーモフ
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、ステファン・サウク、ペルッティ・スヴェホルム、ヤコブ・オーマン、クリストファー・モラー

生涯を美術品にささげ、家族は二の次だった美術商のオラヴィに、全く連絡を取っていなかった娘から連絡があり、問題児だという孫息子のオットーを数日間だけ預かって職業体験をさせてほしいと頼まれる。引き受けてすぐ、彼はオークションハウスで作者不明の肖像画に一目ぼれする。肖像画がロシアを代表する画家イリヤ・レーピンの作品だと知ったオラヴィは、落札するための資金集めに奔走する過程で、娘とオットーの思わぬ過去を知る。

今年の暫定ベストワン作品をご紹介できることが嬉しくて堪らない!試写を観たのは数ヶ月前なのに、未だ場面を思い起こしては身体の震えを覚える。これほど感動が持続する稀有な体験をさせてくれた映画と出逢えたことに感謝したい。

フィンランドのクラウス・ハロは高打率を維持する監督だ。長編5本のうち4本がアカデミー賞外国語映画賞(現:国際長編賞)にノミネートされている。『ヤコブへの手紙』では号泣し、『こころに剣士を』で唸らせてくれた。本作を鑑賞後も暫し涙が止まらなかった。が、決して”湿度の高い”映画ではない。フィンランドの気候や風土が為せるのか、感傷を断ち切ったようなラストは潔い。

物語の舞台であり、主人公が暮らすヘルシンキはロシア領だった頃の面影を残す石畳の美しい街。堅牢でアンティークな建造物群には丸窓が連なり、開口部から射す優しい光が室内を照らし出す。
老いた美術商が営む古びた店内に置かれた絵画や美術品は全てが人生の縮図だ。ハロは登場人物のみならず事物にも魂を宿す技量を持っているようだ。手書きの伝票、旧型タイプライターが映るだけで胸が締め付けられるのはなぜだろう。

美術商がひと目で、イリヤ・レーピン作だと直感したのが”聖画”だという点に監督の意図が込められている気がしてならない。ハロは事物や人物に聖性を帯びさせることのできる稀有な監督だ。
一連の作品を観ても、精神が高貴な創り手の映画には、聖なる魂が宿る...と言ってはオーバーだろうか。心が縮こまったり疲弊した時に観たくなる、一生手元に置いておきたい聖なる存在...。映画の神さまがそんな作品との出逢いを導いてくれた。(幸)


配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
(C) Mamocita 2018
製作国/フィンランド/後援フィンランド大使館/シネマスコープ/DCP5.1ch/95分/2018年
公式サイト:http://lastdeal-movie.com/info/introduction
★2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開★
posted by yukie at 12:50| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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