2020年02月17日
ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ 原題:地球最后的夜晩 英題:LONG DAY'S JOURNEY INTO NIGHT
監督・脚本:ビー・ガン
美術:ウー・チアン
撮影:ヤオ・ハンイ、ドン・ジンソン、ダーヴィッド・シザレ
音楽:リン・チャン、ポイント・スー
出演:タン・ウェイ 、ホアン・ジエ、シルヴィア・チャン、チェン・ヨンゾン、ルオ・フェイヤン
ルオ・ホンウ(ホアン・ジエ)は、父の死をきっかけに、何年もの間離れていた故郷の凱里に帰省する。久々に戻ったふるさとは、彼に他界した幼なじみを思い出させ、同時に長い間心に残っていたある女性の面影を浮かび上がらせる。彼女は、香港の有名女優であるワン・ チーウェンと同じ名前だと彼に告げた。
ビー・ガン29歳、監督2作目にしてウォン・カーウァイを想起させる驚異のビジュアルセンスを日本の観客へ差し出した。現代中国映画界の懐は深い…と痛感させる作品だ。
終盤、主人公が示す、ある誘いにより観客は3D眼鏡をかける。すると、60分間ワンカット長回しの魂の彷徨を、主人公と共に体感する!映像と音楽に酔う目眩く幻想体感である。このような独自性と新感覚アイデアに満ちた若手監督の作品と邂逅するのは久々であり、興奮勝つ陶然とした思いを味わった。
若手監督に実験的アートの場を与える中国映画界の未来は明るいと感じさせる。本国のアート系映画としては、ジャ・ジャンクー監督の『帰れない二人』の興行収入10億円を超え、1日で41億円を記録した、という。海外での評価も高く、19年公開の中国映画としては異例のロングランヒットとなっているのも納得だ。
あらすじを追うよりも、テイストやニュアンスを楽しむ作風のため、現実と過去の記憶、幻想が複雑に交錯する世界観は、観る人によっては入り込みにくいかもしれない。が、ゴダール作品と同様に、監督の脳内を覗き込めると思えば、これほど楽しい体験はないはずだ。
個人的には、、『ラスト、コーション』のタン・ウェイとの再会が嬉しかった。タン・ウェイが発散するアンニュイな雰囲気、諦念、暗い官能は作品世界を象徴している。やはり、タン・ウェイには『ブラックハット』といったハリウッド娯楽作よりも本作のような作家性の濃い監督とのコラボレーションが似合う気がする。
デビュー作で示した故郷・凱里の街空間の豊かなイメージが、本作でも展開される。その構築性は、時として『ブレードランナー』を思わせる趣向を凝らしたライティング映像に。絶妙のタイミングで挿入される音楽にと反映され、ビー・ガンの洗練的手腕は疑いようがない。監督と共に辿るミステリアスな138分の旅をお薦めしたい。(幸)
畢贛(ビー・ガン)監督の長編デビュー作である『凱里ブルース』を観たのは2015年の中国インディペンデント映画祭。この『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』に至る原点のような作品でした。監督の故郷、貴州省凱里へと山道をバイクが上がっていくシーンを覚えている。凱里という街はけっこう雨が降る湿っぽい街のようです。なんか暗い街というイメージ。あるいは時代の変化に取り残された街のようにも思える。
この新作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』も、やはり凱里を舞台にした138分の作品。前作で試みた浮遊感あふれる実験的手法は、冒険心いっぱいだったけど、新作はさらに後半60分にわたるワンカットの長回し映像や3Dを加えてパワーアップ。
父の葬儀のために12年ぶり帰郷したルオは、脳裏に浮かんだ過去の記憶を蘇らせ、現実とも夢ともつかない迷宮を彷徨う。別れた恋人なのか、忘れられない女性なのか、そんな女性の姿を追い求めネオンに彩られた街を歩き、死んだ親友の思い出、やくざとの抗争の記憶も蘇りさまよい歩く。
3D作品を上映中の映画館にルオはふらりと入った後は3D映像に。街中なのか山中なのか、はたまた夢なのか現実なのか、物語の中にいろいろな要素を盛り込み、観客を映画に引き込んでゆく。どういう展開になるのかわからず不思議な世界がひろがる。
出演は『長恨歌』のホアン・ジエ、『ラスト、コーション/色・戒』のタン・ウェイ、『妻の愛、娘の時』の監督シルヴィ ア・チャンなど、豪華キャスト。
昨年(2019年)東京フィルメックスで上映されたが監督の来日はなく、上映後はプロデューサーのシャン・ゾーロンがQ&Aに登場。3Dシーンの撮影については「3D用のカメラでの長回し撮影は大変だと思ったので通常の2Dカメラで撮って、後から変換しました。長回しの部分は監督の譲れない部分でした。時期的には2回に分けて撮影しましたが、何テイク撮っても失敗。その後出演者のスケジュールも確保できなかったので、今年(2019)の春に全員を集めて5日間かけて準備をし、2日間で撮影に成功しました」と語った。
フィルメックスで上映されたバージョンと日本公開バージョンは違い、中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」のオリジナルが途中2回短く流れ(携帯の着信音とラジオから)、エンディングではみゆきさん本人が歌う「アザミ嬢のララバイ」がずっと流れたので、「この曲は中国語でもカバーされているのに、なぜ中島みゆきさん本人のオリジナルを使ったのでしょう」と質問してみた。そうしたら「監督が脚本を書きながら繰り返し聴いていた曲だったので、この曲を使おうと私がヤマハミュージックに許可を取りました。ヤマハも格安にしてくれて契約を取ったのに監督は最終的に使用しないと判断をしてカンヌの上映では別の楽曲を使いました。予算が大幅に超過する中、苦労して楽曲使用料を支払ったので説得し、今回また使ったのです」と答えた。そういう事情があったんだと、みゆきファンの私はすごくウキウキしてその日家路についたのでした。「アザミ嬢のララバイ」のイメージでこの映画ができたのかとも思ったけど、もしかしたら、外国語の曲だから聴いていたのかもとも思った。私も原稿を書くときは言葉が耳に入ってくる日本語の曲ではなく、言葉を聞き取れない中国語とか英語の曲をかけていることがある。そのほうが原稿に集中できる。日本公開バージョンでは「アザミ嬢のララバイ」が最後に使われず、中国語の曲でちょっと残念だったけど、中国語の曲も悪くはなかった。原題は「地球最後的夜晩」。このタイトルのほうがイメージがわく。時代に取り残された街や人々の思いがつまっている感じ(暁)。
製作/中国・フランス合作/2018/ 138分/G
配給・提供:リアリーライクフィルムズ、miramiru
提供:ドリームキッド、basil
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
公式サイト: https://www.reallylikefilms.com/longdays
★2月28日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国公開★
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