監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和
17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は岩手県大槌町出身。9歳の時、東日本大震災の津波で家族を失い、広島に住む叔母の広子(渡辺真起子)と暮らしている。ある日、叔母が倒れ病院に運ばれる。ショックのあまり道端で気を失ったところを、軽トラックで通りかかった公平(三浦友和)に助けられる。公平の家で、公平の母親から原爆の経験など広島で起きたことを聞かされる。久しぶりに故郷を訪れたくなったハルはヒッチハイクしながら岩手をめざす。
夜の街で不良たちに囲まれ、危ない目に遭いそうになったのを、福島から来た森尾(西島秀俊)に助けられる。かつて福島第一原発で働いていた森尾も、津波で家族を失っていた。大槌町まで車で連れていってくれることになる。道中、大槌町に「風の電話」という亡くなった人と話すことができる電話があることを知る・・・
2011年、大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから自宅の庭に設置した「風の電話」。東日本大震災後、亡くなった人と話したいと多くの人が訪れていることを知り、心を動かされて本作を企画・プロデュースした泉英次が諏訪敦彦監督に依頼し映画化したもの。
ハルは道中、妊婦の友香(山本未來)から元気を貰ったり、森尾がかつて住んでいた家の近くで今も暮らす友人・今田(西田敏行)から震災前の美しい景色を思いながら歌う地元の民謡を聞かされたりします。
中でも、森尾が震災の折、ボランティアで来て助けてくれたクルド人を探しに埼玉県蕨に寄る場面に、私はぐっと惹きつけられました。トルコで差別を受け、日本に逃げてきて難民申請するも認められないクルドの人たち。「国はなくてもいいけど、自分の文化で生活したい」というアリさんの言葉は本物。震災で故郷を失い、自分たちの文化を失った被災者の人たちの思いとも重なりました。クルドの人たちが被災地に支援に駆けつけたのも、痛みがわかる人たちだからこそだと思います。このエピソードを入れたことで、映画がぐっと引き締まったと感じました。東日本大震災の折には、私の知り合いのパキスタンやイランの人も被災地に何度も支援に行っているので、そんなことも思い起こさせてくれました。ただ、現実には難民申請していると、県外に出るには許可が必要なので、このクルドの人たちにはボランティアということで法務省もすんなり許可したのかなぁと、ふと思いました。
あと、ちょっと気になったのが、ハルが世話になった年上の人たちに「ありがとうございます」でなく「ありがとう」と言っている点。なんとなくぶっきらぼうな感じがしました。モトーラ世理奈さんは『恋恋豆花』では、「ありがとうございます」と丁寧に言っているので、あきらかに演出なのですが、そのことで彼女のイメージが私には「素っ気ない女の子」になってしまったのは否めません。(咲)
『おいしい家族』、『ブラック校則』、そして本作の後には『恋恋豆花』と昨年秋からモトーラ世理奈の快進撃が続く。ぶっきらぼうな役が多く、その印象があるせいか、個人的には彼女の良さがイマイチ分からないのだが、若い子には人気があるらしい。ただ、本作にはその印象がうまくマッチした感がある。
西島秀俊、西田敏行、三浦友和の3人は控え目だが、人の温かさを感じさせ、印象に残る演技を見せてくれた。(堀)
2019年/日本/139分/G
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C) 2020映画「風の電話」製作委員会
公式サイト:http://kazenodenwa.com/
★2020年1月24日(金)全国公開
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