2020年01月14日
9人の翻訳家 囚われたベストセラー 英題:THE TRANSLATORS
監督・脚本:レジス・ロワンサル
脚本:ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン
撮影:ギヨーム・シフマン
音楽:三宅純
出演:ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコ、リッカルド・スカマルチョ、シセ・バベット・クヌッセン、エドゥアルド・ノリエガ 、アレックス・ロウザー、アンナ・マリア・シュトルム、フレデリック・チョー、マリア・レイチ、マノリス・マフロマタキス、サラ・ジロドー
映画化もされた世界的ベストセラー「インフェルノ」の出版秘話から生まれたミステリー。情報漏洩を防ぐため各国の翻訳家たちを完全に隔離した実話を題材に、発売前の小説の流出危機が描かれる。
ミステリー小説「デダリュス」完結編を世界で同時に発売するため、洋館の地下室に9か国の翻訳家が集められる。彼らは外部との接触を禁止され、毎日20ページだけ渡される原稿の翻訳作業に没頭していた。ある夜、出版社の社長(ランベール・ウィルソン)のもとに、「デダリュス」の冒頭をインターネットに公開したというメールが届く。そこには、指定時間内に金を支払わなければ次の100ページ、要求を拒めば全てのページを流出させると書かれていた。
①まるで映画そのもののような驚くべき実話に着想を得て、練りに練った展開と複雑な構成を仕掛けた脚本チーム。
②キャスティングに1年をかけた妥協を許さぬ製作姿勢。
③それぞれの役柄を肉付けし、造形した各国俳優陣の熱演!
④例のない
シチュエーションを具現化した美術、撮影、照明、音楽などスタッフワークのハイクオリティ。
⑤それらを全て束ね、極上のミステリー・サスペンスに仕上げたレジス・ロワンサル監督。
上記5点と、本作に関わった映画人たちに祝杯をあげたくなるような快作である。ネタばれできないため、この5点を見どころとして押さえてから鑑賞したほうが良さそうだ。
『七人の侍』よろしく、翻訳家たち9人のキャラクターが分かりやすく描出される場面から快調な滑り出し。出版社社長役のランベール・ウィルソンは、登場しただけで品格と知性、傲慢さを醸し出す。圧倒的美貌と、対象にのめり込み易いロシア語担当のオルガ・キュリレンコ。濃い顔ながらも社長への忖度は怠りなく狡猾なイタリアの名優リッカルド・スカマルチョ。
ギリシャ語担当のシニカルな大学教授は翻訳でギリシャ特有の低収事情を補う。パンクロッカーのような出で立ちのポルトガル人。パリ在住のイケメン中国人。
個人的に印象的だったのは、以下の3俳優である。吃音で内向的。普段のセクシーなイメージを払拭したスペインを代表する名優エドゥアルド・ノリエガ。仏俳優ベルナール・ジロドーを父に持ち、エレガントな社長助手を務めたサラ・ジロドー。
群を抜いていたのは、若干25歳ながらベテラン俳優陣を卓抜した演技力と創造性で圧倒した英国人アレックス・ロウザー。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でベネディクト・カンバーバッチの少年時代を演じた”子役”が、いずれ世界の映画界を席捲するのではないかと予想させる程の絶品演者の域にまで到達した。この年代のロウザーは観る価値がある。
見事な俳優陣と巧妙に張り巡らせた伏線。仏の館セット。カメラアングル、照明の妙など、注目すべきところが多く、観客は忙しい思いをする105分だが、知的好奇心を満たしてくれること請け合いだ。ぜひお見逃しないよう!
因みに音楽は、ジャズ・トランぺッターで国際的な活躍が目立つ三宅 純が担っている。(幸)
ベストセラーの完結編を発売前に手に入れたからくりに驚くが、それも犯人にとっては仕掛けの一部。文学は金儲けの道具ではない。自分の物は自分で守る。強い意志が感じられる。
犯人が何度も繰り返した願いは叶わないとわかっていたものの、あえて求めていたとラストで知り、犯人の怒りと悲しみがより伝わってきた。
正しい方向を見ないと目的を見失うという犯人の主張は私たちの人生にも言えることに違いない。(堀)
製作国:フランス/ベルギー
配給:ギャガ
カラー/5.1ch/シネマスコープ/2019/105分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/9honyakuka/
★2020年1月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリーほかにて公開★
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