2020年01月14日

彼らは生きていた 英題:THEY SHALL NOT GROW OLD

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製作・監督:ピーター・ジャクソン

終結から約100年経った第1次世界大戦の記録映像を『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのピーター・ジャクソン監督が再構築したドキュメンタリー。イギリスの帝国戦争博物館が所蔵する2,200時間を超える映像を、最新のデジタル技術で修復・着色・3D化して、BBCが所有する退役軍人のインタビュー音声などを交えながら、戦場の生々しさと同時に兵士たちの人間性を映し出す。
第1次世界大戦中、戦車の突撃や激しい爆撃、塹ごうから飛び出す歩兵など、厳しい戦闘が続いていた。だが、死と隣り合わせの兵士たちも、時にはおだやかな様子で休息や食事を取り、笑顔を見せる。

数多公開される新作の中で、”これは必見の価値あり!”と断言できる映画は年に数本もない。一般的には『ロード・オブ・ザ・リング』などの娯楽作で知られるピーター・ジャクソン監督が、第1次世界大戦の映像をレストアした本作は、まさに”必見”のドキュメンタリーである。
100年前、英国BBCがこれほど仔細に兵士たちの日常を記録していたこと、15歳前後の若い志願兵が多かった事実など、次から次へと繰り出される”真実”に、眼を見張らされ通しの99分だった。更に驚くのはジャクソンら製作チームが手掛けた再構築性である。英国の帝国戦争博物館が所蔵する膨大な映像を最新のデジタル技術で小さな塵、傷まで修復し、資料に基づき着色、3D化したのだ。それぞれが切れ切れに異なるスピードで撮影されていた映像を24フレームに統一。”1秒”24コマである。気の遠くなるような作業だったろう。

映像だけではない。BBCは退役軍人たちの当時を振り返る取材音声などを所有していた。それら音源をナレーションとして構成し、読唇術から当時のお国訛りまで再現。英国アクセントに耳ざとい者としては、どの証言一つ足りとも聞き逃すまいと耳を傾けた。

戦争に希望を抱いていた時代、労働者階級の男たちは挙って志願した。「15歳?18歳に見えるから、そう書いとけ。はい、合格」…今では考えられない緩さである。「3食メシが食えて楽しかった」と語る兵士たち。前半は拍子抜けするほど楽しげな映像が多い。ユーモアや紅茶、バグパイプ、キルト、ラム酒などといった生活習慣を忘れないのが英国流。

戦況は泥沼化し、次第に深刻さを増す戦場。死屍累々たる光景が日常になる。映画は傷んだ死体の山もモザイクなしで映し出す。100年前の出来事が、五感を通して伝わる迫真力。あまりの生々しさに言葉を失うが、眼を背けてはいけない。その中で捕虜として捕らえられた独兵たちとの友愛的交流は救いだ。こうして100万言尽くしても映画の本質は伝わらない。ジャクソン監督の祖父も従軍した戦争。渾身の労作・傑作だ。
あなたの人生のうちの99分をこの映画に捧げてほしい。世界中の戦争・諍いごとがなくなることを願いながら…。(幸)


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戦場の臨場感が半端ないからこそ、かえってフィクションに見えてしまいました。戦時下で、よくもここまで被写体に近寄って撮れたものだと驚いたら、次の戦争のために反省点をチェックできるよう、きちんと記録していたのだそう。日本軍にはなかった発想にさらに驚いきました。
「国のため」と年齢制限に届かない若者までが率先して志願しましたが、支給物資は不足。戦場では次々と命が散っていく。砲撃の瞬間はその振動まで伝わってくるかのようなリアルな映像に戦争の悲惨さがより際立ちます。こんなことは二度としてはいけませんね。(堀)


第1次世界大戦の塹壕戦を描いた映画で真っ先に思い出すのが、『西部戦線異状なし』(ルイス・マイルストン監督、1930年/アメリカ)。蝶が飛んできて、主人公が塹壕からそっと手をのばしたところを狙撃されて命を落とすシーンを、蝶が好きだった母があの兵士の気持ちが痛いほどわかるとよく言っていました。そして、最後に流れるのが「西部戦線異状なし」の報告。兵士一人や二人亡くなっても、それは異状ではないというのが戦争だと空しくなったものです。

『戦場のアリア』(クリスチャン・カリオン監督、2005年/フランス・ドイツ・イギリス合作)は、1914年、最前線での塹壕の中でクリスマスをむかえた3カ国の兵士たちが一夜限りの休戦協定を結んで共にクリスマスを過ごした実話に基づいた物語。
『彼らは生きていた』では、最初の方で、イギリス人とドイツ人が会食中に開戦を知らされ、「戦うのは明日からにしよう」と楽しく会食を続けます。国家どうしの戦争さえなければ、人と人は国や民族が違っても親しくできるものなのだとつくづく思います。

そして、 『緑はよみがえる』 (エルマンノ・オルミ監督、2014年/イタリア)でも、前線をはさんで塹壕に潜む兵士たちの姿が描かれていました。「敵は鉄条網の向こうにいるのではない、理不尽な命令をぬくぬくとした部屋から発している上層部こそ戦地に送られた若者たちの敵だ」という言葉が強く印象に残っています。
『彼らは生きていた』は、本物の塹壕戦を体験した歩兵たちの記録映像。これまでに観てきた戦争映画どころじゃない、ほんとうに生きていた人たちの姿。時にカメラに見せる笑顔に、どうしてあんなに明るい笑顔が見せられたの?と悲しくなりました。
着た切り雀で何日も何日も塹壕に潜み、死と隣り合わせの日々。彼らを戦場に送った権力者たちは、彼らがどんなつらい思いをしているかなど考えもせず命令をくだしているのです。
第一次世界大戦から100年経った今、命令をくだす権力者だけでなく、兵士もまた、塹壕に潜むなどという思いをせず、遠隔操作でドローンやミサイルで適地の人々を殺すのが戦争。犠牲になる多くが罪のない庶民。命令をくだす権力者だけでなく、戦争に直接加担する兵士がつらい思いをしないのでは、戦争はどんどんエスカレートするのではないかと危惧します。
『彼らは生きていた』を、実際に戦争に加担する権力者や兵士にこそ観てもらって、戦争とは人が虚しく死ぬものなのだということを認識してほしいと切に思います。(咲)


最近、古い映画をデジタルに変換したリマスター版というのが多く出ているけど、これは戦争の現場で撮った実際の画像を元にデジタル化したもの。100年前の映像が残っていて、今の技術でこんなに鮮明な画像として蘇っている。まさに映像の魔術だと思った。100年も前に戦争の現場で撮っていたとは。作り物ではない。この時代に生きた人たちの実際の姿。思い。戦争の現実。
戦争に行った若者たちが、年齢を偽ってまで志願していったことが語られるが、その若者たちをそういう思いにさせた偽政者たちがいたから。それは第2次世界大戦でもそうだったし、ベトナム戦争や湾岸戦争でもそうだった。そして現代ではフェイクニュースにだまされてはならない(暁)。


製作国イギリス/ニュージーランド/2018/99分/パートカラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:アンプラグド
公式サイト:http://kareraha.comstrong>
★2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開★




posted by yukie at 14:24| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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