監督:今泉力哉
企画・脚本:アサダアツシ
音楽:渡邊崇
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香
ゲイだと思われるのが嫌でひっそりと生活している井川迅(宮沢氷魚)の前に、別れた恋人の日比野渚(藤原季節)が6歳の娘・空を連れて現れる。迅はしばらくここで住まわせてほしいと言う渚に戸惑うが、空は迅に懐き周囲の人々も三人を優しく見守るようになる。ある日渚は、娘の親権を妻と争っていることを明かし、長年抑えてきた迅への思いを告白する。
岐阜県白川町の長閑でしなやかな空気と地方コミュニティが、ゲイカップルの2人を自然体で受入れる姿勢が心地好い。試写の後、眼を閉じると明るい昼日中の映像ばかりが浮かび上がった。
『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』と立て続けに新作が公開されている今泉力哉監督。本作は既作品の中でも特に肩肘張らない世界観を醸し出している。
企画・脚本のアサダアツシが、脚本を務めたドラマ「岐阜にイジュー!」でも舞台となった 岐阜県白川町。この地を選んだことが本作の柔らかな空気感を決定付けたのではないか。
恋愛映画だが、艶っぽい場面は冒頭と、あまりロマンチックとは言えない軽いキスシーンの2カ所だけ。どちらもサラサラとした印象があり、濃厚なラブシーンは皆無と言っていい。あくまで、2人の恋愛模様を縦軸に、地域コミュニティとの交流を横軸として編み込んだタペストリーのような肌触りの映画だ。
カップル役の2人も宮沢氷魚は”塩顔男子令和代表”なる透明感。藤原季節は『アイネクライネナハトムジーク』に続く今泉組登板。クランクイン前より、白川町のロッジで同居したという逸話からも、リラックスした雰囲気がスクリーンを通して伝わる。2人に主役の気負いは感じられなかった。今泉監督の演出法が奏功しているのだろう。
LGBTQ=社会問題!と短絡的に直結しない話法は新たな方向性を示しているかもしれない。(幸)
映画『チョコレートドーナツ』を彷彿させる内容で、ゲイのカップルが子育てすることを世間はすぐには受け入れられません。しかし、子どもの何気ない一言が周囲の目を変えます。主語は複数よりも単数のほうが変化を受け入れやすい。1人1人と向き合っていくことが大きな変化を生み出していくのでしょう。
親権争いについては意外な結果でした。夫婦が夫婦でなくなっても、互いに相手を尊重する気持ちがあればこその結果だとは思いますが、それが果たして子どもにとってどうだったのか。将来的にはこの選択を子どもは感謝するような気はしますが、なかなか難しいです。(堀)
配給:ファントム・フィルム
製作/日本5.1ch/カラー/127分
©2020映画「his」製作委員会
公式サイト:https://www.phantom-film.com/his-movie/
★2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー★
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