監督:森達也(『A』、『FAKE』)
企画・製作:河村光庸
撮影:小松原茂幸、森達也
音楽:MARTIN(OAU/JOHNSONS MOTORCAR)
出演:望月衣塑子
6月に公開された『新聞記者』の河村プロデューサーが今度は東京新聞社会部・望月衣塑子記者に密着したドキュメンタリーを送り出した。疑問に思うことを質問し続ける望月記者の姿はテレビやSNSでも取り上げられ、目にした人は多いだろう。小柄な彼女がスーツケースを引っ張りながら足早に歩く後ろを森達也監督が追いかける。記者証がないと入れない官邸の前では、待つしかない。歩道に立っているだけでも警官と押し問答になる。8ヶ月に渡って取材した映像は、政府やメディア、観ている我々の問題をあぶりだす。
会見に出席して”記者として当たり前の仕事をしている”望月記者がなぜそんなに話題になるのか、と森監督は言う。外国の記者たちも不思議に思う。他の記者たちがやらないので、目立っているだけ。後に続けないのはなぜか? メディアが萎縮している、というけれども、それだけか? 長期政権の間にはびこってきた”同調圧力の空気”を甘受しているのは誰か? いろんなことを考えさせる映画です。
「i」は衣塑子(いそこ)の「i」、私の「i」、どんな風にでもとってOKです、とQ&Aでの森監督。望月記者はとてもチャーミングでした。
巷で大きな話題になって映画にも登場している籠池氏、伊藤詩織さんも映画祭に出席して、監督の紹介で客席で立ち上がり、拍手をあびていました。東京国際映画祭2019スプラッシュ部門作品賞受賞。(白)
東京国際映画祭授賞式での森達也監督(撮影 宮崎)
(「まさか受賞するとは思わず、レンタル屋さんに行くような服装で来てしまった」と語っていた)
シネマジャーナルHP 第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー記事
東京新聞社会部記者・望月衣塑子を森達也が密着。望月は沖縄に行き、自分の目で見て、住民の声に耳を傾ける。疑問を菅官房長官にぶつけるが質問を遮られ、答えははぐらかさせる。そんな政府の圧力に屈しない望月が幼い子供のいる母親で、方向音痴なところがあることも映し出す。スーパーウーマンの望月に人間味を感じさせた。
後半、森が官邸内の記者会見の場に入り、望月が質問するところを撮影したいと言い出す。しかし、中に入ることがままならない。立ち塞がる権力の壁に森は食い下がる。2人はこれからも立ち向かって行くのだろう。タイトルの「i」は私たち(We)ではなく私(I)で主張しないと方向性を見失うかもしれないという意味。思わず納得してしまった。(堀)
数年前「最近の東京新聞の記事はアクティブで面白い。ワクワクする」と知人が言っていたことがある。それは、この望月衣塑子記者の活躍ともつながっていた。それで官邸で果敢に質問を続ける望月衣塑子記者のことを知った。実際どうなんだろうと思っていたのでこの作品を観た。しかし、疑問を菅官房長官に投げかけても、投げかけても、はぐらかされたり、質問を妨害されたりする姿に、面白いというよりイライラしてしまった。こんなことでいいのだろうか。菅官房長官、ひいては政府は国民をばかにしていると思った。
こういう場面を実際見たことはほとんどない。そういう意味では、そういうシーンを「これでもかこれでもか」と見せてくれるこの映画は、実態を知らせてくれたということ。そして、そんなことにめげず、権力の壁にぶつかっていく望月記者の姿に「がんばれ!」と手に汗握りながら観ていた。他のマスコミの姿はほとんど映されないのでわからないが、他のマスコミはどんな状態なんだろうとも思った。こういう場面を取り上げたY-tubeとかあったりするのだろうか。ネット人間でない私にはそういうのはわからない。あっても削除されてしまうのだろうな。というより、この官邸での記者会見の場に入るには相当クリアしなければならない条件がある。それも描かれる。だから、そういうネットなんかにこの場面を出したら、すぐ「入れる権利」を剥奪されてしまうのかも。だから、他の人たちはできるだけ「あたりさわらず、やれる範囲で」質問しているのだろうか。それに風穴をあけるような望月記者の姿は爽快ではあるけど、つぶされないかと心配もする。
沖縄に行ったり、国会に行ったり、毎日、あちこちでかけては記事を書くという生活を続ける望月さんにも生活はある。子供もいる。夫が時々お弁当を作ってくれたり、子供の面倒も見てくれたりしている姿も出てくるが、このめまぐるしい生活では家族との関係も築けないのではないかと心配する。
女性が活躍するのは嬉しい。でも男と同じように働くということは、女たちが目指してきた平等とは違うような気もする。でも望月さんのとりあえずの現状はこのようにしなければ、知りたい人へ、知りたい記事を知らせるために必要とも思える。このことをやめれば、もっと私たちは知らされないまま暮らすことになってしまう。「時々は休んでね」とエールを送りつつ、がんばってほしいと思う(暁)。
TIFFでのQ&A(撮影:白石)
2019年/日本/カラー/113分
配給:スターサンズ
(C)2019「i 新聞記者ドキュメント」
https://i-shimbunkisha.jp/
★2019年11月15日(金)ロードショー