2019年10月31日

ひとよ

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監督:白石和彌 脚本:髙橋泉 原作:桑原裕子「ひとよ」
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介、田中裕子

ある雨の夜、稲村家の母・こはる(田中裕子)は3人の子供たちを守るため夫を殺害し、子供たちとの15年後の再会を誓って家を後にした。事件以来、残された次男・雄二(佐藤健)、長男・大樹(鈴木亮平)、長女・園子(松岡茉優)は、心に傷を抱えたまま成長する。やがてこはるが帰ってくる。

白石監督は亡き今村昌平ばりに、”ティピカルな旧日本家屋”を映画に登場させることの出来る名手だ。脚本の世界観を普く表現するためロケハンの手間暇を惜しまない。実際に人々が暮らした気配、床や柱に至るまで生活感が沁み込んだ家屋でなければ、人間の心奥に潜む闇、襞などは描出できっこないことをよく知っている。平板なライティングの下に加工されたセット上では、作りものの感情しか生まれ得ないのだ。

それは日本人が高度経済成長期に捨て去ってきた旧い日常、昭和的価値観、生活のリアルな記憶そのものだ。日本家屋で繰り広げられるドラマは、芝居だと分かっていても観客は感情移入を余儀なくされる。
最近は地方が舞台であっても、美人女優だけは方言を使わせない、といった信じられない演出方針の映画を見かける。事務所NG・スポンサーNGなのか…。が、白石監督組ではそんな忖度は許されない。今年、公開の『凪待ち』でも地方に馴染んだお国言葉を演者陣に分け隔てなく喋らせていた。

本作も、俳優たちは悪噂が瞬時にして拡散する地方の町の閉塞感の中で生きて行かなければならない息苦しさを全員が見事に体現している。「一夜(ひとよ)」の出来事に一生を左右される家族と関係者たち。抗いがたい運命、そんなものに支配されてたまるか!と抵抗する子どもがいれば、仕事に利用する者、止むなく受け入れるか、諦観を決め込む家族…。複合的な視点から、映画は「一夜(ひとよ)」を巡る過去と現在を行き来しつつ、”人生、捨てたもんじゃない”という方向性を示す。
出色なのは松岡茉優、田中裕子、韓英恵、MEGUMIらの自然体で肝の座った女優陣と、脇のキーパーソンである佐々木蔵之介、出番は少ないが迫力を見せる千鳥の大悟だろう。口触りの良い映画が少なくない中、骨太な邦画魂を白石監督には今後も期待したい。(幸)


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2011年に劇作家・桑原裕子が率いる劇団KAKUTAが初演した舞台「ひとよ」を映画化。舞台版は母が主人公だが、映画では次男を主人公に。演じる佐藤健は無精ひげを生やし、これまでのイメージから脱皮した役どころにチャレンジした。
子供たちを守るため、暴力を振るう父を母が殺した。それから15年。母の選択は子供たちにとって本当によかったと言えるのか。思い通りの人生にできなかったのは、殺人者の子供として嫌がらせを受けたからだと子どもたちは言う。
人はいつも迷い、揺れる。親が自分のしたことに自信を持たなくては、子供まで価値観が揺らいでしまうと母。田中裕子が語ると圧倒される。縺れた家族の絆は解けるのか。(堀)


製作幹事・配給:日活
企画・制作プロダクション:ROBOT
©2019「ひとよ」製作委員会
公式サイト:https://www.hitoyo-movie.jp/
★11月8日(金)全国ロードショー★
posted by yukie at 10:52| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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