2019年10月27日

少女は夜明けに夢をみる  原題:Royahaye Dame Sobh 英題:Starless Dreams

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監督:メヘルダード・オスコウイ

雪だるまを作って、無邪気に雪合戦に興じる少女たち。
ここは、高い塀に囲まれた更正施設。強盗、殺人、薬物、売春などの罪で捕らえられた少女たちが収容されている。貧困や、親族からの虐待で罪を犯してしまった少女たち。彼女たちは、心に傷を抱えながらも、塀の中で過ごしている間は安心したようにも見える。

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かつて、少年の更生施設の少年たちに取材し、2本のドキュメンタリーを描いたメヘルダード・オスコウイ監督。少年施設の奥に少女たちの施設があることを知り、彼女たちのことを知りたいと施設を統括する国家刑務所機構に取材を申請する。7年かかって、ようやく撮影許可を得る。3ヶ月という限られた期間の中で、20日間で少女たちに取材。
監督に同年代の娘がいることを知り、「あなたの娘は愛情を注がれ、わたしはゴミの中で生きている」と語る少女。そんな彼女たちが心を開いたのは、監督自身、15歳の時に父親が破産し、自殺をはかった経験があると語ったことから。
少女たちが、監督に心を開いて語った人生は、それぞれが壮絶だ。
釈放が決まった少女がいう。
「おめでとうじゃなくて、お悔やみをよ。外は地獄なの」
少女の目から、ふっとこぼれる涙。背負った運命はあまりに重い。

「お父さんに仕事があればいいのに」という少女の言葉に、未成年の青少年にとって家庭環境が人生を左右することをつくづく思いました。イランだけでなく、どこの国でも同じこと。
一方、本作を観ていてイランらしいなと思ったのが、更生施設の大きな部屋の周囲の壁際に2段ベッドが並んでいて、真ん中が広く空いていて、そこで集うことができるようになっていること。
イランの家庭にお邪魔すると、大きな部屋に絨毯が敷き詰められていて、椅子や小さなテーブルが周りを取り囲むように置かれています。テーブルセットがある場合も、邪魔にならないように端っこにあります。
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映画では、少女たちが食卓を囲んで新年を迎える瞬間が映されています。イラン暦の新年は、春分の日に迎えます。太陽が春分点を通過する時間を天文学的に正確に計算して、新年を迎える時として事前に発表されます。年によって、真昼になったり、夕方になったりと時間は様々。本作の原題は『夜明けの夢』。もしかしたら、監督が撮影したのは、イラン暦1394年のお正月(西暦2015年3月21日)かなと思いました。この年は、午前2時15分11秒に新年を迎えたからです。
インタビューの折に、監督から逆に質問攻めにあい、時間切れになってしまったのですが、このことだけは確認したくて伺ってみました。
撮影したのは、その前年、イラン暦1393年(西暦2014年)で、新年を迎えたのは、午後8時27分7秒。監督は、私の質問の意図を察知して、「タイトルを『夜明けの夢』としたのは、刑務所で死刑執行の時間が朝の5時で、彼女たちは死刑宣告を受けているわけじゃないけれど、朝の5時というのは怖い時間。5時を過ぎれば、安心して夢がみれるのです」と教えてくださいました。
(注:11月6日にもう一度映画を観てみたら、クルアーンや金魚を飾っているテーブルが出てきて、ラジオから「1393年になりました。おめでとうございます」というアナウンスが聴こえてました。失礼しました。映画でちゃんと言ってるじゃないかと冷たいことを言わない、優しい監督でした!)

イラン社会は、ことのほか家族や親族の絆が強くて、よく集まります。そんな社会で、この更正施設にいる少女たちは、家族に会いたくないと口をそろえます。どれほどつらい思いをしたのでしょう。
この施設の中にいる間は、お互い心に傷を持った者どうし、まるで家族のよう。施設で働く人たちも彼女たちを家族のように見守っているのが印象的でした。施設を出たあと、彼女たちが平穏な人生をおくれることを願うばかりです。(咲)


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メヘルダード・オスコウイ監督
「権力者は見せたくないものを絨毯の下に隠すので、私たち映像作家は、はたき出して世の中に見せるのです」
インタビュー詳細は、こちらでどうぞ!

2016年/イラン/ペルシア語/76分/カラー/DCP/16:9/Dolby 5.1ch/ドキュメンタリー
配給: ノンデライコ
(C)Oskouei Film Production
公式サイト:http://www.syoujyo-yoake.com/
★2019年11月2日(土)より、東京・岩波ホールほか全国順次公開




posted by sakiko at 21:20| Comment(0) | イラン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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