2019年08月29日
やっぱり契約破棄していいですか!?(原題:Dead in a Week: Or Your Money Back)
監督・脚本:トム・エドマンズ
撮影:ルーク・ブライアント
出演:トム・ウィルキンソン (レスリー・オニール)、アナイリン・バーナード(ウィリアム・モリソン)、フレイア・メイヴァー(エリー・アダムズ)、マリオン・ベイリー(ペニー・オニール)、クリストファー・エクルストン(ハーヴェイ)
小説家志望の青年ウィリアムは、原稿は突き返されるばかり、少しも芽が出ない。おまけに自殺を試みるたびに失敗している。今日は橋の上から飛び降りようとしているとき、通りかかった年配の男が止めるでもなく名刺をよこす。ちょうど通過した観光船の屋根に落下したウィリアムは、またもや生き延びてしまった。翌日、名刺の番号に電話し、昨夜の男と待ち合わせすることになる。レスリー・オニールは英国暗殺者組合の会員。かつては名うてのヒットマンだったが、今やノルマを達成できずクビ寸前。自殺名所を見回っては死にたがっている人間を探していたのだった。
契約が成立して双方がホッとした後、編集者のエリー・アダムズからウィリアムの本を出版したいと電話がある。打ち合わせをするうちに二人は急速にひかれあい、ウィリアムはレスリーに契約破棄を申し出るが拒否される。契約では1週間以内に殺せなければ全額返金される。かくして、死にたくなくなったウィリアムとクビになりたくないレスリーとの命がけの追いかけっこが始まった。
レスリー役のトム・ウィルキンソンは、これまで数えきれないほどの出演作があるベテラン俳優。あちこちで観たことがあります。この方に「英国暗殺者組合」の名刺を渡されたらありそうな気がしてしまいます。アナイリン・バーナードは『ダンケルク』で主要な兵士の一人でしたが、みんな軍服姿だったので、すぐに思い出せず。本作では死にたいときに死ねず、生きる目的が見つかったときには、自分が依頼したヒットマンに狙われるという皮肉な役柄です。
いかにも気弱そうなウィリアムを支えるのが、出版社のエリー。このフレイア・メイヴァーは『泣き虫ギタリスト』でもしっかり者の恋人でした。レスリーを応援する奥さんペリーにも注目して。生き死にがかかっているというのに、笑いどころもたくさんあるイギリスらしいブラックコメディ。(白)
殺し屋に組合があり、ノルマを達成できないと引退を勧告される。老いを迎えた殺し屋は仕事を続けたいばかりに、死にきれない自殺志願者に「自殺を外注しないか」と営業をかけた。
とんでもない設定に驚くが、本作は死を延期したくなった自殺志願者とノルマを達成したい殺し屋をコミカルに描くことで、 “生きるとはどういうことか”を伝えている。
殺し屋はいたって真面目だ。殺しの方法をイラストで丁寧に説明し、依頼者の懐具合も考慮する。不幸な偶然で仕事に失敗すると、帰るや否や指先の感覚を鍛えるゲームを取り出し、自分の技量を確かめる。高いプロ意識を感じさせた。
一方、妻に対しては話をしっかり聞いてあげて、いい夫ぶりを発揮する。仕事帰りに買って来るよう頼まれたソースは買い忘れていたけれど、そんなことはどこの家庭でもあること。妻に指摘されて逆切れする夫もいる中、改めて買いに行こうとすることで十分及第点がもらえるだろう。
妻も夫の仕事を理解し、支え続けてきた。夫の仕事結果が掲載された新聞記事をスクラップにしてプレゼントしたこともあるようだ。そばで見てきたからこそ、夫の変化をよくわかっており、引退してほしいと思っているが夫の気持ちを尊重する。
殺し屋にとって仕事は生きがいなのだろう。しかし、老いは誰にでも訪れる。いつまでも仕事にだけ生きがいを感じて生きていくわけにはいかない。その時々で生きがいも変化していく。妻が提案する旅行に出掛けるなど、新しい生活を真剣に考えることも大切だ。
それは自殺志願者も同じ。生きる意味を見出している人が世の中にどれだけいるというのだろう。みんな、わからないまま生きている気がする。
以前、バラエティー番組で林修先生がこんな話をしていた。「やりたいこととできることの座標軸でどちらも+の部分の仕事をみんなができるわけではない。やりたいけれどできないことをやるのではなく、やりたいことではないけれどできることをするべき」と。林先生自身がやりたくないけれどできることを仕事にしたのだという。
自殺志願者と殺し屋の出会いは2人に人生に向き合うきっかけを与え、ダークコメディな作品を人生賛歌に昇華させた。(堀)
2018年/イギリス/カラー/ビスタ/90分
配給:ショウゲート
(C)2018 GUILD OF ASSASSINS LTD
http://yappari-movie.jp/
★2019年8月30日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
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