2019年08月01日
ピータールー マンチェスターの悲劇 原題:PETERLOO
監督:マイク・リー
出演:ロリー・キニア、マクシーン・ピーク、デヴィッド・ムースト、ピアース・クイグリー
ヨーロッパ諸国を巻き込んだナポレオン戦争も、1815年のウォータールーの戦いを最後に、ようやく終結。だが、英国では勝利を喜ぶのも束の間、経済状況が悪化、労働者階級の人々は職を失い、貧しさにあえいでいた。彼らに選挙権はなく、あちこちで不満が爆発し、抗議活動が炸裂していた。1819年8月16日、マンチェスターのセント・ピーターズ広場で大々的な集会が開かれ、著名な活動家であるヘンリー・ハントが演説することになる。だがこれは、あくまで平和的に自分たちの権利を訴えるデモ行進になるはずだった。あろうことか、サーベルを振り上げた騎兵隊とライフルで武装した軍隊が、6万人の民衆の中へと突進するまでは──。
今年の洋画暫定5位以内には入りそうな重厚長大たる傑作!重い映画と感じるかもしれないが、主題は極めて現代に通じる普遍性があり、写実的には19世紀初頭にタイムスリップし、自らが体感しているかの如くリアル感に満ちている。
『秘密と嘘』『ヴェラ・ドレイク』など秀作を撮り続ける英国の名匠マイク・リーはマンチェスター出身でありながら、「ピータールーの虐殺」事件をよく知らなかったという。調べるに連れ、政府が市民運動を鎮圧した圧政を歴史に埋もれさせてはならないとの使命感で映画化に踏み切った。政治問題・社会問題を扱った映画が製作し辛い何処かの国とは異なる”表現の自由”さに溜息を吐いてしまう。
ナポレオン戦争を終結させた戦いは、日本では”ワーテルロー”と呼ばれるが、英国では”ウォータールーの戦い”である。セント・ピーターズ・フィールド広場をもじり、「ピータールーの虐殺」と知られる大事件を、マイク・リーはまるでドキュメンタリーのように描く。基本的に主人公は存在せずスター俳優も出ない。弾圧する側の王室を諧謔味たっぷりに、政治家、軍人、法律家、資本家らは既得権益を守るエゴそのもの。弾圧される記者、市民活動家、労働者階級の人々。職場や家庭での細かな逸話を積み重ね、クライマックスに導く。
当時の労働者にとって「白い服」は晴れの日や教会へ行く時しか着られなかった。1800年代の衣装を再現し、晴れ着を纏って広場に集まった女性・子供たちをサーベルで容赦なく斬り付ける政府軍騎馬隊。集会に集まった男たちはもちろん丸腰だ。つい先ほどまで晴れやかな顔をしていた庶民たち、何ら抵抗する術のない彼らが次々と死屍累々の山を築いて行く現実…。息を飲まざるを得ない。
現代の天安門事件、香港のデモ弾圧、ロシアの選挙妨害・大量の逮捕者といった今起きている圧政の図式と、本作は地続きなのだ。浅薄な知識ゆえ、前半の論戦に次ぐ論戦が繰り広げられる場面は字幕を追うのに精一杯で、歴史認識まで至らなかった。是非もう一度観てみたいと思う。そういう映画は滅多にない。見逃せない今年の1本だ。
(幸)
© Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.
2018年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1ch/155分/
配給:ギャガ
公式サイト:gaga.ne.jp/peterloo/
8月9日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開
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