2019年07月27日

北の果ての小さな村で(原題:Une annee polaire)

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監督・脚本・撮影:サミュエル・コラルデ
脚本:カトリーヌ・パイエ
音楽:エルワン・シャンドン
出演:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、ガーティとトマシーネ、ジュリアス

グリーンランド東部に人口80人の小さな村チニツキラークがある。村の小学校にデンマークから28歳の青年教師アンダースが赴任してきた。アンダースは7代も続いた農家の一人息子だった。親の希望は後を継ぐことと知ってはいたが、ほかの仕事を経験したくてわざわざ不便なこの村での生活を選んだのだ。
しかし、やんちゃな子どもたちは新米教師の言うことを聞いてくれない。自然は想像以上に厳しく、自分の予想が甘かったことを早々に思い知る。土地の言葉を学ばずにやってきたアンダースは、村でもなかなか受け入れてもらえない。ある日、連絡なしに学校を休んだアサーの家を訪問したアンダースは、苦言を呈するつもりだったが、逆に狩猟で暮らす少年の祖父母からさまざまなことを教わることとなる。

アンダースが教師の希望を出したとき、役所の担当者に「デンマーク語を教えるのだから土地の言葉は覚えなくてよい」と言われます。外国語の授業でその国の言葉を使わない、というのは聞きますが、暮らしていく上で土地の言葉を身につけるのは必須でしょう?かつてはデンマークの植民地だったこと(1979年より自治政府)が影響しているのか、なんだか見下しているように見えます。
家業を素直に継げないアンダース、両親は後継者がとぎれるのが不安、どちらの気持ちもわかります。これは世界中普遍の悩みですね。
この大きな身体の優しそうなアンダースと村の人々は俳優ではなく、全て本人。ドキュメンタリーは今そこにあるものを映していますが、これは本人たちに少し前の自分たちを再現してもらっているようです。サミュエル・コラルデ監督はいつもこの手法を使うそうで、どんな風に演出しているか覗いてみたくなります。
普段見る地図は上下が広がっているメルカトル図法ですが、地球は丸くて極地からアラスカはすぐ近く。住民の顔立ちはヨーロッパとは違って親近感があります。北極圏のグリーンランドは日本の5倍の面積ですが、ほとんどが凍土で中央部には人が住めません。島の周囲に5万7千人(!)ほどが住んでいるそうです。厳寒期でないとき一度行ってみたいものです。(白)


『北の果ての小さな村で』sub6.jpg


「郷に入っては郷に従え」ということわざがあります。これはまさにそのことを伝える作品でした。
最初、自分の価値観を押し付けようとしたアンダースでしたが、ここの自然と、人々の知恵、暮らしぶりに触れ、溶け込もうとする姿がとても良かった。彼らと生活していく中で、ここの文化、歴史、言葉、狩りの方法などを知っていく。厳しくも美しい自然の中で、イヌイットたちは分け合って生活するという知恵を身に着けて生きてきた。
アンダースは故国デンマークから逃げるようにこの地にやってきて、自分の価値観が打ち砕かれたけど、かわりにこのグリーンランドの地で、新しい価値観と出会い、その中で生きていく道を選んだ。きっとデンマークに帰ってからも、ここで培ったことが生きていく糧になっていくのでしょう(暁)。


2018年/フランス/カラー/シネスコ/94分
配給:ザジフィルムズ
(C)2018 Geko Films and France 3 Cinema
http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
★2019年7月27日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 09:14| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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