2019年06月20日

凪待ち

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監督:白石和彌 
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー

毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―。
ある夜、亜弓から激しく罵られた郁男は、亜弓を車から下ろしてしまう。そのあと、亜弓は何者かに殺害された。恋人を殺された挙句、同僚からも疑われる郁男。次々と襲い掛かる絶望的な状況を変えるために、郁男はギャンブルに手をだしてしまう。

”警察は…”ならぬ、「監督は何をやってもええんじゃ!」(笑)と映画の真髄を痛感させてくれた『孤狼の血』の白石監督。国民的アイドルの香取慎吾をやさぐれ中年男に調教してみせた。「ノーメイクで行く」と指示した監督に従い、無精髭、顔の澱(おり)や皺を隠さない覚悟で香取も期待に応えた。
コミック原作が跋扈する邦画界の中で(中には秀作もあるが)、加藤正人のオリジナル脚本が気味良い。加藤が”無類の競輪好き”ということもあり、温めていた作品であろうことが分かる。ギャンブルで身を持ち崩した香取扮する郁男が車券を買う”ノミ屋”の紫煙・安酒の匂いが立ち込める雰囲気、集う男たちの佇まい、ノミ行為に関わる勢力の手口などは知る人でなければ書けないリアルさに満ちている。競輪競技の描写も秀逸だ。

香取慎吾が新境地・演技開眼したのではと唸らさせれる場面は多い。乱闘・泥酔するシーンは、尋常ではない血走った眼つきと力強さを発散する。終盤、大きな身体を震わせて泣きじゃくるショットは、フェリーニの名作『道』のラスト、アンソニー・クイン扮するザンパノを想起させた。

本作の見どころは、今村昌平作品ばりの古い日本家屋、石巻の寂れた漁港といった描写の素晴らしさにある。そして、決定打は吉澤健、不破万作、麿赤兒ら高年トリオの名演だろう。殊に吉澤健は、’60年代の状況劇場、’70年代に若松孝二監督作品を観て育った身としては、涙を禁じ得ない。存在そのものが”生きている”のだ。様々な角度から楽しめる本作は間違いなく今年の邦画界に於ける収穫となろう。
(幸)


2018/日本/カラー/124分
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS 
配給:キノフィルムズ
公式サイト :http://nagimachi.com/
6月28日(金)全国ロードショー
posted by yukie at 11:40| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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