クリス・マルケル Chris Marker
(1921年~2012年)
パリ生まれの映画作家/プロデューサー/写真家など。
第二次世界大戦中は、ナチスに対するレジスタンスに参加。
『夜と霧』(1955年)でアラン・レネの助監督を務める。
記憶と記録、歴史と個人史、戦争、虚構と現実など、永遠に消えることのないテーマで数多くの作品を発表。フィルム、写真、本、ビデオ、ゲームなど、多様なメディアを自在に使った独特の作品は映像詩のようでもある。
数回来日し 日本についての作品もつくっている。
(公式サイトより抜粋)
■上映作品
『北京の日曜日』 1956年/カラー/DCP/20分
『シベリアからの手紙』 1958年/モノクロ/DCP/61分
『ある闘いの記述』 1960年/カラー/DCP/60分
『イヴ・モンタン~ある長距離歌手の孤独』 1974年/DCP/60分
『サン・ソレイユ』 1982年/カラー/DCP/104分
『A.K.ドキュメント黒澤明』 1985年/カラー/35㎜/74分
『レベル5』 1996年/カラー/DCP/110分
『不思議なクミコ』 1996年/47分/35㎜/47分
試写で拝見した2作品について紹介します。
◆『シベリアからの手紙』
原題:Lettre de Sibérie
1958年/フランス/モノクロ/DCP/61分

© 1957 Argos Films
レンズが捉える開発途上のシベリアの街や壮大な風景。
凍った大地のイメージのシベリアだが、緑の草原も広がる。白樺が美しい。
「悪魔が作ったタイガ」と呼ばれるシベリアの地は、アメリカとほぼ同じ大きさ。
シベリア鉄道が敷設され、町が建設される。
郊外には集団農場コルホーズ。
家鴨の集団。もともと家禽としてシベリアにはいなかった。
マンモスの時代がアニメーションで描かれる。
トナカイの群れる大地に、開発の車がやってくる。
軍艦が居並ぶ港・・・
シベリアの今と昔が、映像やアニメーションで点描される映像詩。
この地にやってきたよそ者が、見聞したシベリアに住む人々や風物のことを書簡形式で語る。不毛の地に人の息吹が吹き込まれていく姿が展開されて興味深い一作。(咲)
◆『ある闘いの記述』
原題:Description d'un combat
1960年/イスラエル=フランス/カラー/DCP/57分
1961年ベルリン国際映画祭短編部門金熊賞

© 1961 Van Leer Productions et S.O.F.A.C
© 2014 Argos Films – Cinémathèque de Jérusalem
1948年にユダヤの人々が“約束の地”に建国して、12年目を迎えたイスラエルの様子を捉えた作品。
海沿いの町、ハイファ。旧約聖書にも出てくるカルメル山が背後にそびえる。
エルサレムでは、「ここはアラブ人の街」と嘆くユダヤ人の姿。一方で、荒れ果てたキャラバンサライやモスクも映し出される。追い出されたパレスチナ人のものだろう。
エルサレムには超正統派ユダヤの人たちの住む地区メアシェリームも出来ている。
ヘブライ語が蘇る。一方、エルサレムの町では、アラビア語も聞こえてくるし、イディッシュ語、ドイツ語、フランス語、ロシア語など、各地から移ってきたユダヤの人々の言葉も飛び交っている。
移民してきたユダヤ人が共同生活をおくるキブツ、死海、ネゲブ沙漠、紅海、ナザレ・・・ イスラエルが建国されて変わりつつある各地の姿も映し出される。
映画『サラー・シャバティ氏』(1964年/イスラエル)で観たイスラエルの建国初期の姿を思い起こした。
セファルディム(中欧のユダヤ人)の難民たちが荒れた海をイタリアから船で渡ってきてハイファに上陸するも、すぐにキプロスに移送されてしまう。
「ユダヤ人は他の民族を同じ運命に追いやるのか」と映画の中で語られているが、それを証明するかのように、今はシリアやアフリカなどからの難民が船でヨーロッパを目指し、追い返されている。なんとも複雑な気持ちになる。
1967年の第三次中東戦争勃発後、マルケル自身が本作の上映を禁じた時期もあったという。
イスラエル建国初期の姿を映し出した作品を、今再び観ることのできる貴重な機会に感謝したい。(咲)
【トークショー】
4月6日(土) 時間未定 ゲスト:港千尋さん(写真家/写真評論家)
4月7日(日) 15:00「北京の日曜日」「イヴ・モンタン」上映後 ゲスト:金子遊さん(映像作家)
4月13日(土) 12:30 「A.K.ドキュメント黒澤明」「不思議なクミコ」上映後 ゲスト:古賀太さん(日本大学教授)
4月14日(日) 17:30「サン・ソレイユ」上映後 ゲスト:岡田秀則さん(映画研究者)
企画・事務局:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/ChrisMarker/
★2019年4月6日(土)~4月19日(金)渋谷ユーロスペース